【特集】要注意はロシアとエジプト。それ以外には負ける気がしない…松本慎吾




 昨年夏の欧州修行に続き、グレコローマン84kg級アジア大会王者の松本慎吾(一宮運輸)が、全日本チームを離れ、米国へ単独修行へ出掛けた(写真右)。世界トップクラスの実力を持ちながら、世界選手権では五輪V2のハムザ・イェルリカヤ(トルコ)に惜敗してアテネ五輪出場資格に手が届かなかった。

 資格獲得の残されたチャンスは2回。絶対に取りこぼしができない勝負を控え、悲壮な決意で米国へ向かった松本に聞いた。(聞き手=樋口郁夫)


Q:今回の単独遠征は、自分で決めた?

松本:国内では練習相手がいない。海外で鍛える必要があった。まず去年行ったウクライナに当たったが、欧州遠征するので練習はあまりできないとのこと。ハンガリー、トルコにも当たったが、受け入れ態勢ができておらず、アメリカが引き受けてくれることになった。

Q:決意したのは、いつ?

松本:全日本選手権の前から話はあったが、本当に決まったのは、全日本選手権のあとだった。

Q:全日本で優勝しないと、そうした気持ちになれなかった?

松本:いえ…。国内の戦いは頭の中になかったです。

Q:コロラドスプリングスは11月に全日本の遠征で行っていますね。

松本:標高が高いので(約1700メートル)、心肺機能は高まります。ヨーロッパはそり投げを使った技が多く、技そのものはアメリカよりうまい。アメリカはスタミナで押すタイプが多い。ただ競り合った時の勝負強さはある。そのあたりを学びたい。

Q:クリンチは?

松本:うまくないですよ(笑)。クリンチの強さをつけるのなら、ヨーロッパですね。

Q:コロラドスプリングスの練習環境は?

松本:レスリングだけではなく、いろんなスポーツのナショナルチームが練習しています。JISS(国立スポーツ科学センター)を大きくしたようなところです。

Q:練習スケジュールは聞かされている?

松本:5日から18日まで全米のトップ選手が集まって練習します。そのあと、デーブ・シュルツ国際大会がありますが、これに出るかどうかは、(22日に渡米してくる)嘉戸コーチと話し合って決めます。トライアル前に実戦にならす必要があるかもしれないし、本番を前にしてケガをしてもいけない。出場選手を見たりして考えたい。

Q:五輪予選を前にして単独で遠征することに、不安は?

松本:それはありません。日本にいる方が不安です。練習相手がいませんから。

Q:話は前後するが、全日本選手権でのリフト技(俵返し)は見事でしたね(写真左)

松本:(照れ笑い)。ボクの後の選手は、けっこう緊張しちゃったみたいですね。池松(和彦)だって、本当ならテクニカルフォールできたはずなのに、硬くなっていましたよね。

Q:持ち上げてから少し時間があった。カメラ映りとかを考えたの?

松本:いえ…(苦笑)。最初のリフト狙いをレフェリーに(時間で)止められたので、今度はしっかり決めてやろうと思って。

Q:リフト技は、まずローリングで1〜2点をリードしてから仕掛けるか、最初の体力のあるうちから狙っていくかの判断が難しいと思う。シドニー五輪でのカレリンは、最初にリフトを狙って失敗したのが最後まで響いた。最初にローリングで1点を取っていれば、そのまま勝てた可能性が高い。

松本:難しいですよ。俵返しに魅力を感じるので最初から狙いたいとは思うが、ローリングで1、2点をリードするのがセオリーだと思う。やはり、強豪とやる時は、まずローリング狙いかな。それで体力を消耗したら、後半にリフトをかけるのは難しいし…。相手にもよりますね。

Q:五輪第2次予選でのライバルは? 02年の世界2〜4位、昨年の欧州1〜2位がまだ残っている。

松本:ロシア(アレクサンダー・メンシコフ=02年世界2位)、エジプト(モハマド・アブドエルファタ=02年世界3位)が要注意ですね。エジプトは今回、コロラドスプリングスに来るみたいです。

Q:挑む? それとも手の内を隠す?

松本:挑みますよ。負けても、数多くやることで弱点をつかめると思う。同じく俵返しが得意な選手なので、何かを盗めると思う。

Q:アジアの選手が1人も資格を取っていないのですよね。

松本:去年のアジア・チャンピオンのカザフスタン(アブデュラハ・ジャブライロフ)は注意したいが、東アジア大会(01年、大阪)で勝っている(5−1)。2位のウズベキスタン(エフゲニー・エロファイロフ)にもアジア大会で勝っている(3−1)。アジアは誰が相手でも負けない自信がある。

Q:アジア大会で優勝した自信?

松本:ええ、それは大きいですね。アジアの選手相手では体力負けしない。世界でも、ロシアとエジプト以外は負ける気はしない。

Q:アメリカ(ブラッドリー・ベーリン)は資格を取っていますよね。

松永:そんなに強い選手じゃないですよ。(自分が優勝した)去年のデーブ・シュルツ。メモリアル大会では途中で負けていた。彼に勝った選手に自分が勝った。(資格を取っていない)キューバの方が強い。

Q:残っている選手の間で、9番目以内(注・五輪第2次予選は、第1ステージ5位以内、第2ステージ4位以内の計9選手が資格を獲得)にいることは間違いない?

松本:9位には絶対に入っていますよ。でも、正直なところ、ロシアとエジプトとは同じブロックにはなりたくない。決勝で思い切り勝負したい。

Q:シドニー五輪を逃してから、もう4年が経った。

松本:早かったですね。でも東アジア大会とアジア大会で優勝して充実していました。世界選手権で結果を出せなかったけど、その悔しさはことし爆発させたい。

Q:オリンピックを狙えるのは、これが最後という気持ち?

松本:でしょうね。ダメなら北京五輪を狙えばいい、なんて思っていたら、絶対に勝てない。4年後まで、今の力が持つこともないでしょうし。

Q:今回、女子に注目が集まっていることについては?

松本:やっぱり悔しいですね。この前(年末年始合宿)も、女子のマットだけカメラがまわっていて、グレコローマンのマットは愛媛(松本の故郷)の新聞社くいらいでしたからね(笑)。アジア・チャンピオンでは騒がれないんですね。やはり世界一にならなければ…。

Q:アメリカでは狂牛病に注意してください。

松本:(苦笑)。肉、けっこう食べるんですよ…。




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