【特集】「アテネでも喜びを分かちあいたい」…浜口京子


 【75kg級】浜口京子(ジャパンビバレッジ) 優勝

 1回戦 ○[フォール、0:57=4-0]田中希枝(愛知・中京女大付高)
 2回戦 ○[フォール、3:38=8-0]村島文子(中京女大)
 3回戦 ○[Tフォール、5:53=10-0]斉藤紀江(ジャパンビバレッジ)


   

   


 昨年12月の天皇杯全日本選手権で、女子のファイナルマッチ、すなわメーンイベントを務め、観戦に訪れた天皇皇后両陛下に“提供”されたのは、吉田沙保里と山本聖子の2人の現役世界チャンピオン同士の一戦だった。勝負がどちらに転ぶか分からない緊迫感でいえば、この激突にまさるカードはあるまい。

 しかし、アテネ五輪の代表を決める最終選考会「ジャパンクイーンズカップ2004」の最後のマットに立っていたのは、世界5度優勝、押しも押されもせぬ女子レスリングのエース、浜口京子だった。約70社から200人の報道陣が訪れ、日本レスリング史上最高の盛り上がりを見せたアテネ五輪への最終選考会で最前線を務めてもらうのは、山本美憂の最初の引退以降の日本女子レスリングをけん引してきた浜口に白羽の矢が立った。

 同僚の斉藤紀江(ジャパンビバレッジ)との決勝戦。75kg級で世界のトップに君臨する浜口にとって、1階級下で戦ってきた選手には絶対に負けられない。「最重量級で勝ってきた意地と誇りがある。譲れない」という気持ちだったという試合前。この気持ちや浅草応援団のいつも以上の熱のこもった応援も気負いなどにはならず、冷静に自分のレスリングを展開。

 「気合を入れすぎたら」冷静にできなくなる」として、開始早々に猛撃し一気にフォールを決めるといった試合ではなかったものの、失点するムードもない危なげない試合展開は第一人者の貫録が十分。最後はテクニカルフォールで勝ち、世界最強のレスラーの意地を見せた。

 マットへ向かう前、試合に敗れてマットを後にしてきた山本聖子が「がんばって!」と声をかけてくれた。傷心のドン底にいる聖子の思いやりがうれしかった。負けられなかった。

 試合後は、父・アニマル浜口さんからの肩車での祝福を受けた。1997年の世界選手権で披露して全国に流れたシーン。98・99年の世界選手権で勝った時も演じてくれたが、王座を転落し、奪還したあとの2度の優勝の時には見ることのできなかった歓喜のシーンだ。「心の中でやってもらいたいなあ、と思っていたんです。父から『やろう』と言ってくれて」。言葉をかわさなくても、2人の気持ちはぴったり一致していた。

 「アテネでも、みんなで喜びを分かちあいたいです。アテネまで死に物狂いで練習します。目標は金メダルあるのみです」。日本のエースは最後に力強く言い切った。


 アニマル浜口さんの話「13歳のあの泣き虫が、13年かかってようやく夢をつかむことができました。オリンピック代表に決まり、あらためて身の引き締まる思いがします。『求道者に完成はない!』。闘いとは何か、人生とは何か。それをとことん追求し、一瞬の気のゆるみも作らず。エベレストの頂上の雲上の超人たれ! 京子には、私にはできる、やればできる、必ずできるという気持ちでがんばって欲しいと思います。みなさん、本当にありがとうございます」

(取材・文=宮崎俊哉、樋口郁夫)




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