【特集】名門吹田から9年ぶりにMVP…長尾明来士




 全国中学生選手権の最優秀選手には、53kg級を全試合フォールで勝って優勝した長尾明来士(あらし)が選ばれた。名門・吹田市民教室からは意外にも1995年の藤本貴生以来、9年ぶりの受賞。昨年は兄・武沙士(むさし=大阪・近大付高)がインターハイ50kg級王者に輝いており、それに続く快挙の達成だ。
 
 MVPの選考過程は明らかにされていないが、6試合フォール勝ちという内容であることは間違いない。6試合のうち4試合は第1ピリオド(2分)での勝利という圧倒的な強さ。現在はテクニカルフォール勝ちというルールがあり、実力差があってもフォールを狙わずにポイントを積み重ねて10点差を狙う場合も多い。「レスリングはフォールするスポーツ」という原点に立ち返っての完全優勝は文句なしの受賞といえよう。

 長尾は「自信ありました。練習の量も質も充実していましたから」と胸を張る。1、2年生の時はともに3位にも入れなかった。兄も中学時代の3年間は1度も3位以内に入っておらず、決していい血統ではないようだ。それだけに「悔しさをばねに頑張りました」という言葉に実感がこもる。

 フォールもテクニカルフォールも、同じ白星であり、同じ「勝ち点4」。現行ルール上では大きな違いはない。しかし、だからといってフォールを狙う必要はない、とはならない。強豪選手を育てている指導者が口をそろえて言うのは、「試合ではポイントを小刻みに取って勝つ勝ち方でもいいと思う。しかし、練習ではフォールを狙う練習を徹底的にさせる。フォールするのはきつい。そのきつさに挑むことで体力も根性もつく。その基礎ができてこそ、試合でポイントが取れる」ということ。原点を忘れた姿勢からは、強さは生まれないのである。

 試合でも常にフォールを狙って戦った長尾の今後が期待される。「出る試合にはすべて勝っていきたい」と話すその先には、当然、兄の成し遂げたインターハイ王者があるはずだ。

 「明来士」という名前の由来は、両親ともに「?」。「兄がムサシだから小次郎にしようと思ったけど、小次郎だとムサシを越えることはできないと言われて、どうしようかと迷っていたら、いつの間にかアラシになって…」と、訳の分からない説明に終始したが、本人は「明るい日が来るように、ということじゃないですか」ときっぱり。長尾家には、今以上に明るい未来がやってきそうだ。

(取材・文=樋口郁夫)



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