【特集】アテネ五輪にかける(1)…フリースタイル55kg級・田南部力



 2度目のオリンピック出場となるフリースタイル55kg級の田南部力(警視庁)。さすがに本番を前にして何をしていいか分からないといったまごつきはなく、「調整に入るのは試合の3週間前から。それまでは十分に息を上げる練習を続けます」と、自らが決めたペースを守って練習を続けている。

 スタミナ養成のために実施した標高1500メートルの長野・菅平での合宿(7月20〜28日)も、「ここでやるのは4回目。どのくらいの練習でどのくらいばてるかは分かっている」として戸惑うこともなく、予定通りの練習ができているようだ。

 「シドニー五輪の時は、『どうしよう、どうしよう』と思っているうちにオリンピックが来た。焦った。今は、そうした焦りはない」という。調子が悪いときでも自分を見失うことはなく、それを乗り切るすべも実行できている。この4年間の多くの経験は無駄ではなかったといえるだろう。

 その経験の中には、最近1年半でシドニー五輪王者(ナミク・アブデュラエフ=アゼルバイジャン)、2001年世界チャンピオン(ゲルマン・コントエフ=グルジア)、2002年世界チャンピオン(レネ・モンテロ=キューバ)を破ったことがある。もちろん1度破ったくらいで安心できないが、敵を何人かに絞っていい状況はつくってきた。

 五輪での敵としてマークする必要がある選手は、ディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン=2003年世界チャンピオン)、アレクサンダー・ザハルク(ウクライナ=2003年世界3位)あたり。他の選手の研究を怠るという意味ではなく、「9人も10人も研究していたら、とてもじゃないが研究し切れない」として、これらの選手の対策に力を入れていきたいという。

 現役世界チャンピオンのマンスロフは、対戦成績こそ過去2戦2敗だが、「戦いやすタイプなんです。苦手意識はありません。勝てます」ときっぱり。ザハルクには3月のヤシャドク国際大会(トルコ)で0−5の判定で敗れているので、むしろこちらの方の研究と対策の方が必要かもしれない。いずれにせよ、実力的に金メダルは射程圏内。いかに対戦相手を研究し、いいコンディションをつくるかが金メダル獲得のポインといえるだろう。

 いいコンディションづくりのためには、大会前に「練習しない勇気」が必要といわれる。特に29歳とベテランの域に入った田南部には、疲れの蓄積が大きな敵となる。しかし、そこは十分に承知済み。さらに和田貴広コーチという最適の"アドバイザー"がそばにいる。「和田さん(貴広=日本協会専任コーチ)がシドニー五輪に出たのが、今の自分の歳。今の自分の立場を分かってくれ、いろいろアドバイスしてくれる」と、大きな力になってくれているという。

 「和田さんは憧れの選手であり、技術的にも目標とする選手でした。和田さんの背中を見て強くなってきました」と絶対の信頼をおくコーチでもある。「意見が違うことがあっても、きちんと聞いてくれるし、衝突しても頭ごなしに否定はしない。和田さんが(シドニー五輪後に)コーチになった時、和田さんについていこうと決めた。最終的には和田コーチの意見に従うと思う。和田コーチを信頼したい」とも話す。

 「我(が)の強さが必要」ともいわれる五輪金メダル獲得の道だが、選手と指導者の信頼関係も必要なはず。これなくして金メダルを取った選手はいないのも事実。この強い信頼関係は、大きな力になっているような気がする。田南部にとっての2度目のオリンピックは、和田コーチと歩んだ4年間の成果を出す舞台でもある。

(取材・文=樋口郁夫、
上記写真はいずれも7月21日、菅平


◎フリースタイル55kg級の強豪と田南部力との対戦成績


 2000年シドニー五輪を含めて最近4年間でいずれも別の選手が世界一になっている混戦階級。その中でも、アレクサンダー・ザハルク(ウクライナ)ナミク・アブデジュラエフ(アゼルバイジャン)ゲンナディ・チュルビア(モルドバ)あたりが安定している。昨年の世界チャンピオンのディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン)は、国内でアドチャム・アチロフとの代表争いがし烈。どちらが代表になったか。

 田南部は、最近1年半の間にで2000年シドニー五輪王者のアブデュラエフ、2001年世界王者のへルマン・コントエフ(ベラルーシ)、2002年世界王者のレネ・モンテロ(キューバ)を破っている。また2001年世界2位のババク・ヌルサド(イラン)、2002年世界2位のアブデュラエフ(シドニー五輪王者)、2003年世界2位のチュルビアにも勝っている。

 2003年世界王者のマンスロフには2戦2敗。同年世界3位のザハルクには1戦1敗。敵はこの2人+1〜2選手に絞られているといっていい。
(写真は、左からコントエフ、マンスロフ、アブデュラエフと戦う田南部)

  

 ※田南部の最近の国際大会成績 ⇒ クリック


◎フリースタイル55kg級出場国と出場が予想される選手

03世界選手権1位 
ウズベキスタン (Dilshod Mansurov または Adcham Achilov)
03世界選手権2位 
モルドバ (Ghenadie Tulbea)
03世界選手権3位 
ウクライナ (Oleksandr Zakharuk)
03世界選手権4位 
イラン (Babak Noorzad or Mohammad Aslani)
03世界選手権5位 
米国 (Stephen Abas)
03世界選手権6位 
ギリシャ(Amiran Kartanov)
03世界選手権7位 
日本 (田南部力)
03世界選手権8位 
トルコ (Ramazan Demir or Melvana Kulac)
03世界選手権9位 
カザフスタン (Bauyrshan Orazgaliev or Maulen Mamyrov)
03世界選手権10位 
モンゴル (Bayaraa Naranbaatar)
03世界選手権11位 
南アフリカ (Shawn Williams)
二次予選(1)1位   
キューバ (Roberto Montero)
二次予選(1)2位   
ベラルーシ (Herman Kontoev)
二次予選(1)3位   
アルメニア (Martin Berberyan)
二次予選(1)4位   
ウズベキスタン (Namig Abdullaev)
二次予選(1)5位   
中国 (Li Zhengyu)
二次予選(2)1位   
インド (Dutt Yogeshwar)
二次予選(2)2位   
韓国 (Kim Hyo Sub)
二次予選(2)3位   
ロシア (Mavlet Batirov または Adam Batirov または Alexander Kontoev)
二次予選(2)4位   
ブルガリア (Radislav Velikov または Ivan Velkov Dyorev)
開  催  国     =世界6位参照
ワイルドカード    
北朝鮮 (O Song-Nam)
ワイルドカード    
アフガニスタン(Bashir Ahmad Rahmati)


◎2000年シドニー五輪〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 【2000年シドニー五輪】=54kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Samuel Henson(米国)○[8−4]●Alexander Zakharuk(ウクライナ)
Herman Kontoev(ベラルーシ)○[4-2=8:38]●Maulen Mamyrov(カザフスタン)

 ▼準決勝
Samuel Henson(米国)○[3−0]●Herman Kontoev(ベラルーシ)
Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)○[5−3]●Namik Kardanov (ギリシャ)

 ▼5・6位決定戦
Alexander Zakharuk(ウクライナ)○[8−1]●Maulen Mamyrov(カザフスタン)

 ▼3位決定戦
Namik Kardanov (ギリシャ)○[5−4]●Herman Kontoev(ベラルーシ)

 ▼決勝
Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)○[4−3]●Samuel Henson(米国)

 【2001年世界選手権】=54kg級

 ▼準々決勝
Alexander Kontoev(ロシア)○[6−3]●Zuunbayan Tumendemberel(モンゴル)
Babak Noursad(イラン)○[6−2]●Gotcha Kirkitadze(グルジア)
Herman Kontoev(ベラルーシ)○[5−0]●Arif Farmanov(アゼルバイジャン)
Maulen Mamyrov(カザフスタン)○[Tフォール、5:58=12-1]●Dilshod Mansurov(ウズベキスタン)

 ▼準決勝
Babak Noursad(イラン)○[5−1]●Alexander Kontoev(ロシア)
Herman Kontoev(ベラルーシ)○[4−2]●Maulen Mamyrov(カザフスタン)

 ▼3位決定戦
Maulen Mamyrov(カザフスタン)○[4−1]●Alexander Kontoev(ロシア)

 ▼決勝
Herman Kontoev(ベラルーシ)○[5−1]●Babak Noursad(イラン)

 【2002年世界選手権】

 ▼準々決勝
Adcham Achilov(ウズベキスタン) ○[5−3]●田南部力(日本)
Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)○[3-0=6:03]●Zuunbayan Tumendemberel(モンゴル)
Rene Montero Rosales(キューバ)○[5−4]●Martin Berberyan(アルメニア)
Alexander Zakharuk(ウクライナ)○[5−1]●Oularbek Tuganbai(キルギスタン)

 ▼準決勝
Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)○[3−1]●Adcham Achilov(ウズベキスタン)
Rene Montero Rosales(キューバ)○[4−2]●Alexander Zakharuk(ウクライナ)

 ▼3位決定戦
Alexander Zakharuk(ウクライナ) ○[3−1]●Adcham Achilov(ウズベキスタン)

 ▼決勝
Rene Montero Rosales(キューバ)○[4−1]●Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)

 【2003年世界選手権】

 ▼準々決勝 
Mohamed Aslani(イラン)○[6−3]●Amiran Kardanov(ギリシャ)
Ghenadi Tulbea (モルドバ)○[10−8]●Stephen Abas(米国)
Dilshod Mansurov(ウズベキスタン)○[5−2]●田南部力 (日本)
Alexander Zakharuk (ウクライナ)○[Tフォール、5:07=10-0]●Ramazan Demir(トルコ)

 ▼準決勝
Ghenadi Tulbea (モルダビア)○[Tフォール、4:13=13-3]Mohammed Aslani (イラン)
Dilshod Mansurov (ウズベキスタン)○[5−4]●Zakharuk, Alexander(ウクライナ)

 ▼3位決定戦
Oleksandr Zakharuk (ウクライナ)○[5-2=6:22]●Mohammed Aslani (イラン)

 ▼決 勝 
Dilshod Mansurov (ウズベキスタン)○[7−4]●Tulbea, Ghenadi (モルダビア)




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