【特集】アテネ五輪にかける(2)…フリースタイル60kg級・井上謙二



 「焦らないようにって自分に言い聞かせています」と、初の五輪出場を控えるフリースタイル60kg級の井上謙二(自衛隊)。プレッシャーというものなのかどうか分からないとのことだが、ともすると焦りが出てしまう今の心境を吐露してくれた。

 これまで世界選手権に出場したことがないだけに、期待される度合いはエース級の選手に比べれば小さいはず。しかし、だからといって「プレッシャーはかからない」とならないのがオリンピック。自衛隊の壮行会では防衛庁長官ほか日本のトップ級の人たちから激励を受け、「全国の24万人の自衛隊員の期待をも感じた」と、いやがおうでも緊張が高まった。

 まして、オリンピックはレスリングを始めた頃からの憧れの舞台。一時はけがのためマットを離れ、はるかかなたに去ってしまったかにも思えた夢の舞台だ。「そのマットに立てることに最高の幸せを感じる」だけに、ちょっとした国際大会に出るような気持ちで臨めるはずはない。やはりプレッシャーとの闘いがついてまわる。

 憧れの舞台だからこそ、悔いを残して終わりたくはない。世界での実績はないものの、若さからくる思い切りのよさという最高の武器もある。「他の国の選手からマークされていない分、つけいるすきはあると思う。小さなチャンスであっても、そこをつけば大きなチャンスに変わる。勢いをつけて戦いたい」と、初出場という不利を有利に変えて五輪のマットに立つ腹積もりだ。

 2月のアテネ五輪第2次予選第2ステージという最初で最後のチャンスを、優勝という最高の形でものにした勝負強さは頼もしい限り。恐れるものは何もない。自分の持つ運を信じて戦うことが望まれる。

 6月下旬の練習中に鼻骨を骨折し、ボクシング選手のようなヘッドギアをつけて練習を続けた。それも7月中旬に取ることができた。「顔が(相手の体に)当たっても痛くはない。思い切りできる」と負傷の後遺症はないそうで、最後の1か月の練習は思う存分にこなせそうだ。

 五輪出場を決めた13日後の4月26日に、父方の祖父・太一さんが100歳で亡くなった。「オリンピックの意味がよく分かっていなかったみたいだけど…」とのことだが、それでも天国への最高の餞(はなむけ)になったはず。「壮行会で田舎(京都)へ帰った時、線香をあげてきました。アテネへは特に形見は持っていきませんが、天国から見ていてくれると思います」。全力で戦えば、きっと天国の祖父も味方してくれることだろう。

(取材・文=樋口郁夫、
上記写真はすべて7月21日、菅平


◎フリースタイル60kg級の強豪と井上謙二との対戦成績


 ずば抜けた選手がおらず、優勝を予想するのは難しい。世界チャンピオンは2001年はギフィ・シサオウリ(カナダ)、2002年がアラム・マルガリャン(アルメニア)、2003年がアリフ・アブデュラエフ(アゼルバイジャン)。ほかに、2002年アジア大会王者のプレブバータル・オユンブレグ(モンゴル)、2003年世界2位のヤンドロ・ミゲル・クインタナ(キューバ)あたりがコンスタントにいい成績を残している。
(右写真は、シドニー五輪のダニエル・イガリフリー69kg級=に続いてのカナダからの五輪王者を目指すシサオウリ=左=と、アジアからの五輪王者の可能性を持つモンゴルのオユンブレグ)


 井上は6月のドイツグランプリでシサオウリに0−4で負けている。世界選手権に出場がないため、トップ選手との対戦はほとんどない。伏兵的な存在を生かすことができるか。


  ※井上の最近の国際大会成績 ⇒ クリック


◎フリースタイル60kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位  
アゼルバイジャン(Arif Abduallaev)
03年世界選手権2位  
キューバ(Yandro Quintana)
03年世界選手権3位  
韓国(Jung Young-Ho)
03年世界選手権4位  
インド(Sushil Kumar)
03年世界選手権5位  
グルジア(David Pogosian または Lasha Lomadze)
03年世界選手権6位  
トルコ(Tevfik Odabasi)
03年世界選手権7位  
キルギスタン(Ulu Ulan Dadyrabek)
03年世界選手権8位  
ウズベキスタン(Damir Zakhartdinov)
03年世界選手権9位  
オーストラリア(Lubos Cikel)
03年世界選手権10位 
米国(Eric Guerrero)
二次予選(1)1位     
ロシア(Mourat Umachanov)
二次予選(1)2位     
ブルガリア(Radoslav Velikov)
二次予選(1)3位     
ウクライナ(Vasyl Fedoryshin)
二次予選(1)4位     
カナダ(Giuvi Sissaouri)
二次予選(1)5位     
イラン(Mostafa Goha Masuod)
二次予選(2)1位     
日本(井上謙二)
二次予選(2)2位     
カタール(Ibrahim Abdulrahman)
二次予選(2)3位     
ハンガリー(Gergo Wesller)
二次予選(2)4位     
モンゴル(Oyunbileg Purevbattar)
開  催  国       
ギリシャ(Besik Aslanisvili)
ワイルドカード       
アルバニア(Sahit Prizreni)


◎2000年シドニー五輪〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 
【2000年シドニー五輪】=58kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Ali Reza Dabir(イラン)○[5−2]●Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)
Terry Brands(米国)○[4−2]●David Pogosyan(グルジア)

 ▼準決勝
Ali Reza Dabir(イラン)○[6−4]●Terry Brands(米国)
Evgeni Buslovich(ウクライナ)○[2-0=9:00]●Damir Zakhartinov(ウズベキスタン)

 ▼5・6位決定戦
Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)○[6−0]●David Pogosyan(グルジア)

 ▼3位決定戦
Terry Brands(米国)○[3−2]●Damir Zakhartinov(ウズベキスタン)

 ▼決勝
Ali Reza Dabir(イラン)○[3−0]●Evgeni Buslovich(ウクライナ)

 
【2001年世界選手権】=58kg級

 ▼準々決勝
Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)○[6−2]●Yandro Miguel Quintana Ribalta(キューバ)
David Pogosyan(グルジア)○[3−1]●Zelimkhan Gusseinov(ロシア)
Guivi Sissaouri(カナダ)○[7−5]●Vasyl Fedorishin(ウクライナ)
Anatoli Guidea(ブルガリア)○[6−4]●Arif Abdullaev(アゼルバイジャン)

 ▼準決勝
Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)○[5−1]●David Pogosyan(グルジア)
Guivi Sissaouri(カナダ)○[4−0]●Anatoli Guidea(ブルガリア)

 ▼3位決定戦
David Pogosyan(グルジア)○[3−0]●Anatoli Guidea(ブルガリア)

 ▼決勝
Guivi Sissaouri(カナダ)○[5−2]●Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル

 
【2002年世界選手権】

 ▼準々決勝
Mohammad Talaee(イラン)○[4−3]●Petru Toarca(ルーマニア)
Aram Margaryan(アルメニア)○[4−3]●David Pogosyan(グルジア)
Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)○[3−1]●Daniel Wilde(ドイツ)
Harun Dogan(トルコ)○[5−2]●Damir Zakhartinov(ウズベキスタン)

 ▼準決勝
Aram Margaryan(アルメニア)○[4−3]●Mohammad Talaee(イラン)
Harun Dogan(トルコ)○[6−5]●Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)

 ▼3位決定戦
Purevbaatar Oyunbuleg(モンゴル)○[2-2=9:00]●Mohammad Talaee(イラン)

 ▼決勝
Harun Dogan(トルコ)○[3−2]●Aram Margaryan(アルメニア)

 
【2003年世界選手権】

 ▼準々決勝
Arif Abdullaev(アゼルバイジャン)○[不戦勝]●Damir Zakhartinov(ウズベキスタン)
Sushil Kumar(インド)○[6−3]●David Pogosyan(グルジア)
Yandro Miguel Quintana Ribalta(キューバ)○[Tフォール、1:07=12-1]●Tevfik Odabasi(トルコ)
Jae-Myung Song(韓国)○[3−1]●Ulan Nadyrbek Ulu(キルギスタン)

 ▼準決勝
Arif Abdullaev(アゼルバイジャン)○[9−8]●Sushil Kumar(インド)
Yandro Miguel Quintana Ribalta(キューバ)○[5−2]●Jae-Myung Song(韓国)

 ▼3位決定戦
Jae-Myung Song(韓国)○[3−1]●Sushil Kumar(インド)

 ▼決勝
Arif Abdullaev(アゼルバイジャン)○[4−3]●Yandro Miguel Quintana Ribalta(キューバ)




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