【特集】アテネ五輪にかける(6)…グレコローマン55kg級・豊田雅俊



 グレコローマンというより男子の先陣を切って戦うことになるであろうグレコローマン55kg級の豊田雅俊(警視庁)。「今のところ、世界選手権の時よりプレッシャーはないです。実際にオリンピックの会場を見たらどうなるか分かりませんが」と、試合をあと少しに控えた段階では、過度の緊張には襲われていないことを断言する。「昔から大会に向けて緊張するタイプではありませんでしたから」と頼もしい。

 心がけるのは「ふだんの自分を出すこと」。この気持ちは今回も変わらない。今年3月には2002年世界チャンピオンを破ったが、「たまたま勝ったといえる試合」と評し、浮かれる気持ちはない。それでも「このクラスは同じくらいの実力の選手が固まっている」と分析し、上位へ食い込むことは不可能ではないと見ている。

 実力は上であっても、「レフェリーのホイッスルひとつで変わるのが勝敗」と思っている。それを実感したのが、国内の五輪代表権をかけた明治乳業杯全日本選抜選手権の安原隆(自衛隊)との一戦。クリンチの開始をめぐって再三タイミングが合わなかった末にポイントを失い負けてしまった試合。自分の力があきらかに上と思っていても、たったひとつの失敗で負けてしまうのが勝負だ。

 もちろん、この逆もありうるわけで、「みんな紙一重の中でやっている。その中での勝負なんです」と、一瞬も気を抜くことなく戦うことの重要性を口にした。

 徳島・穴吹高校時代に超高校級と騒がれてから10年が経った。拓大時代には全日本大学選手権に4連覇しながら、なかなか全日本チャンピオンや世界選手権代表になれなかった。「階級が(52kg級から54kg級へ=その後55kg級へ)変わったこともありますし…。本当の実力がなかったんですよ」と振り返る。その不振を乗り越える一因となったのが、家族の存在。「一人でいるよりも、気持ちの切り替えがうまくいった」と必要以上に悩んだり落ち込むことがなくなったとそうだ。「2人の子供に勝つ姿を見せたいとも思いますし」とも言う。

 明治乳業杯のプレーオフで勝って五輪出場を決め、穴吹高校時代の恩師の藤田芳弘さんの顔を見たときは、なかなか期待にこたえられなかった申し訳なさが一気に出たのだろう、号泣してしまった。だが、オリンピック・チャンピオンが嘱望されていた豊田にとって、五輪出場は通過点でしかないはず。本当に泣いてもらわねばならないのは、オリンピックで勝った時。不振だった時期のエネルギーをすべて燃やし尽くし、メダルをその手にしてほしいものだ。

(取材・文=樋口郁夫、
写真は7月21日、菅平


◎グレコローマン55kg級の強豪と豊田雅俊の対戦成績

 2001年はハッサン・ラングラス(イラン)、02年はガインダー・マメダリエフ(ロシア)、03年はダリウス・ヤブロンスキ(ポーランド)がそれぞれ世界王者についた。
03年2位のイム・ダエウォン(韓国)も含めて、いずいれも圧倒的な強さを持ってはおらず、誰が優勝してもおかしくない状況といえる。
 
 豊田は昨年8月に02年世界5位のエルカン・イルディス(トルコ=97年世界王者を、ことし3月に02年世界王者のマメダリエフを撃破。上位に食い込む力はある。

 ※豊田雅俊の最近の成績 ⇒ クリック


◎グレコローマン55kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位 
ポーランド(Dariusz Jablonski)
03年世界選手権2位 
韓国(Im Dae-Wong)
03年世界選手権3位 
キューバ(Lazaro Rivas)
03年世界選手権4位 
チェコ(Petr Svehla)
03年世界選手権5位 
ルーマニア(Marian Sandu)
03年世界選手権6位 
キルギスタン(Uran Kalilov)
03年世界選手権7位 
イラン(Hassan Rangraz)
03年世界選手権8位 
デンマーク(Hakan Nyblom)
03年世界選手権9位 
リトアニア(Svajunas Adomaitis)
03年世界選手権10位
ウクライナ(Oleksiy Vakulenko)
二次予選(1)1位    
米国(Dennis Hall)
二次予選(1)2位    
トルコ(Ercan Yildiz)
二次予選(1)3位    
ハンガリー(Istvan Majoros)
二次予選(1)4位    
グルジア(Iraki Chachua)
二次予選(1)5位    
中国(Jiang Sheng)
二次予選(2)1位    
日本(豊田雅俊)
二次予選(2)2位    
ロシア(Guidar Mamadaliev)
二次予選(2)3位    
カザフスタン(Nurbahit Tenisbayev)
二次予選(2)4位    
インド(Mukesh Khatri)
開  催  国       
ギリシャ(Artioum Kiouregian)
ワイルドカード      
アルジェリア(Samir Benchenef)
ワイルドカード      
ドミニカ(Jansel Ramirez)


◎2000年シドニー五輪〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 
【2000年シドニー五輪】=54kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Kwon Ho Sim(韓国)○[6−4]●Alfred Ter-Mkrtchyan(ドイツ)
Yong Gyun Kang(北朝鮮)○[10−5]●Chao-Li Wang(中国)

 ▼準決勝
Kwon Ho Sim(韓国)○[Tフォール、2:37=10-0]●Yong Gyun Kang(北朝鮮)
Lazaro Rivas Scull(キューバ)○[Tフォール、2:26=11-0]●Andriyj Kalashnikov(ウクライナ)

 ▼5・6位決定戦
Alfred Ter-Mkrtchyan(ドイツ)○[6−0]●Chao-Li Wang(中国)

 ▼3位決定戦
Yong Gyun Kang(北朝鮮)○[7−0]●Andriyj Kalashnikov(ウクライナ)

 ▼決勝
Kwon Ho Sim(韓国)○[8−0]●Lazaro Rivas Scull(キューバ)

 【2001年世界選手権】=54kg級

 ▼準々決勝
Lazaro Rivas Scull(キューバ)○[4−3]●Mukesh Khatri(インド)
Hassan Rangraz(イラン)○[Tフォール、2:22=13-0]●Tanyo Tenev(ブルガリア)
Uran Kalilov(キルギスタン)○[3-2=7:13]●Boris Radkevich(ベラルーシ)
Brandon Paulson(米国)○[3-0=6:18]●Rakhimdshan Assembekov(カザフスタン)

 ▼準決勝
Hassan Rangraz(イラン)○[6−3]●Lazaro Rivas Scull(キューバ)
Brandon Paulson(米国)○[1-1=9:00]●Uran Kalilov(キルギスタン)

 ▼3位決定戦
Lazaro Rivas Scull(キューバ)○[3−1]●Uran Kalilov(キルギスタン)

 ▼決勝
Hassan Rangraz(イラン)○[8−4]●Brandon Paulson(米国)

 
【2002年世界選手権】

 ▼準々決勝
Hassan Rangraz(イラン)○[8−3]●Ercan Yildiz(トルコ)
Nepes Gukulov(トルクメニスタン)○[7−3]●Marian Sandu(ルーマニア)
Gaidar Mamedaliev(ロシア)○[3-1=6:33]●Brandon Paulson(米国)
Ashot Khachatryan(アルメニア)○[9−3]●Artiom Kiouregian(ギリシャ)

 ▼準決勝
Nepes Gukulov(トルクメニスタン)○[フォール、2:40=3-11]●Hassan Rangraz(イラン)
Gaidar Mamedaliev(ロシア)○[4−3]●Ashot Khachatryan(アルメニア)

 ▼3位決定戦
Hassan Rangraz(イラン)○[Tフォール、4:39=10-0]●Ashot Khachatryan(アルメニア)

 ▼決勝
Gaidar Mamedaliev(ロシア)○[4−0]●Nepes Gukulov(トルクメニスタン)

 【2003年世界選手権】

 ▼準々決勝
Dariusz Jablonski(ポーランド)○[5−0]●Hakan Nyblom(デンマーク)
Petr Svehla(チェコ)○[3−0]●Hassan Rangraz(イラン)
Dae-Won Im(韓国)○[5−2]●Marian Sandu(ルーマニア)
Lazaro Rivas Scull(キューバ)○[4−2]●Uran Kalilov(キルギスタン)
 
 ▼準決勝
Dariusz Jablonski(ポーランド)○[3−0]●Petr Svehla(チェコ)
Dae-Won Im(韓国)○[4−1]●Lazaro Rivas Scull(キューバ)

 ▼3位決定戦
Lazaro Rivas Scull(キューバ)○[5−1]●Petr Svehla(チェコ)

 ▼決勝
Dariusz Jablonski(ポーランド)○[6−5]●Dae-Won Im(韓国)




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