【特集】アテネ五輪にかける(13)…女子72kg級・浜口京子




 アテネ五輪の開会式の旗手という栄誉を受け、五輪へ臨む女子72kg級、日本レスリング界というより日本スポーツ界のエース、浜口京子(ジャパンビバレッジ)。それだけに一挙手一投足が報じられてしまう。7月中旬、かぜで合宿参加を取りやめた時も、すべてのメディアが報じ、中には「開会式参加も危ぶまれる」と書いた紙面もあった。注目される選手の宿命と言ってしまえばそれまでだが、心理面で影響しないかと心配される。

 しかし、開会式での笑顔を見る限り、そんな心配はなさそう。「すごく感動した。多くの人と目を合わせて、手を振ることができた。これだけの大観衆の前で旗手をしたので、試合では落ち着けると思う」。注目、そして大役をもエネルギーにし、金メダルへばく進する浜口がアテネにいた。

 幸い日本は柔道、水泳、体操と金メダルが続き、浜口への注目はいったん小休止状態。試合前の一番大事な時を自分のペースで調整できる幸運に恵まれた。アテネでの気分転換と気合を入れる“武器”は演歌のCD。「美空ひばりのCDを持っていく」と話しており、今ごろは気持ちのアップとダウンの織り交ぜながら、徐々に最高のコンディションつくりに努めているころだろう。もちろん他の競技の躍進は、刺激され、頑張りにつながるはずだ。

 12選手が出場する72kg級で、負けたことがあるのは世界V6のクリスチン・ノードハゲン(カナダ)と昨年のワールドカップ優勝のトッカラ・モンゴメリ(米国)の2人だけ。ともに昨年秋の地元開催のワールドカップで一敗地にまみれているだけに、日本のメディアはこの2選手がすごい選手であるかのように思っている一面がある。しかし、その負けた試合の内容や翌年1月のプレ五輪での対戦と結果、内容を分析してみると、その評価はあたらない。

 ノードハゲンは1月に浜口に、6月にモンゴメリにそれぞれフォール負けしており、実力をかなり落としていることが予想される。33歳という年齢、五輪種目採用がなかなか実現しなかった末に迎えた五輪だけに、五輪出場が実現することで気持ちが満足してしまったと考えるのは、あまりにも身びいきすぎるか。だが、この時期にライバル相手にフォール負けすることは、心技体のどこかが欠けていると考えてもおかしくはあるまい。

 モンゴメリは、ワールドカップで浜口を破った印象だけが残っているが、その大会でマ・バリン(中国)に敗れており、12月には1階級下の世界チャンピオンのクリスティ・マラノ(米国)にフォール負け、ことし2月にはアニータ・シャツル(ドイツ)にも黒星を喫するなど、ずば抜けた強さを持っている選手ではない。鈴木光監督が「モンゴメリはワールドカップの時が最高の状態。逆に浜口は疲れが取れていなかった」(鈴木光監督)と評したように、浜口がコンディションつくりをさえ失敗しなければ、決して負ける相手ではないのである。

 米国レスリング協会のホームページでは、昨年に続いて浜口を「日本のスポーツ界のヒーロー(注:最近はヒロインではなく、男女に関係なくヒーローと使うらしい)と紹介。五輪開会式の旗手の栄誉もまかされた」と、この階級の第一人者として大々的に報じている。AP通信、USAツデー紙、スポーツ専門誌「スポーツイラストレーテッド」、レスリング専門紙「W.I.N.」といった米国のメディアの金メダル予想も、モンゴメリをさしおいて「キョウコ・ハマグチ」。かろうじてUSAレスリング協会メディア担当のゲリー・アボット氏がモンゴメリを予想(期待?)している程度だ。

 勝負の世界は、過去の実績や対戦成績は関係ないのは事実であるが、世界V5の現役世界チャンピオンともなれば、それだけで大きな脅威を相手に与えられる。日本選手団の上昇気流に乗った浜口の金メダル獲得は、あらゆる方面から分析しても100%に近い可能性と断言していい。


(取材・文=樋口郁夫、
写真は8月7日、国立スポーツ科学センター


◎女子72kg級の強豪と浜口京子の対戦成績

 浜口京子以外で世界チャンピオンを経験しているのは、6度優勝しているクリスチン・ノードハゲン(カナダ)だけ。トッカラ・モンゴメリ(米国)は2度の世界ジュニア選手権を含めて、2位が最高。ことしの欧州チャンピオンのグゼル・マニュロバ(ロシア)は、昨年の世界選手権は9位で、二次予選第1ステージで資格を取った選手だ。

 2003年の欧州チャンピオンのアニータ・シャツル(ドイツ)は、世界ジュニア選手権で2度優勝の実績があるが、シニアの世界選手権では68kg級時代の3位が最高。モンゴメリに分かっているだけでも3勝1敗と相性がいい。2002年世界選手権決勝で浜口と決勝を争ったワン・シュ(中国)は昨年の世界選手権ではモンゴメリに完敗して3位に終わっている。

 浜口は、ノードハゲンと3勝3敗だが、ことし1月にはフォール勝ち。モンゴメリには2勝1敗、シャツルには3戦全勝など。ロシア選手には過去1度も負けていない。

 ※浜口京子の国際大会成績 → クリック


◎女子72kg級出場国と出場が予想される選手

03年世界選手権1位 
日本(浜口京子)
03年世界選手権2位 
米国(Toccara Montgomery)
03年世界選手権3位 
中国(Wang Xu)
03年世界選手権4位 
ブルガリア(Stanka Hristova)
03年世界選手権5位 
ドイツ(Anita Schaetzle)
二次予選(1)1位   
カナダ(Christine Nordhagen)
二次予選(1)2位   
ウクライナ(Svetlana Sayenko)
二次予選(1)3位   
ロシア(Gouzel Manyurova)
二次予選(2)1位   
オーストリア(Marina Gastl)
二次予選(2)2位   
イタリア(Katarzyna Juszczak)
二次予選(2)3位   
モンゴル(Burmaa Ochirbat)
開  催  国     
ギリシャ(Aikaterinii Siavou)


◎2001〜2003年世界選手権成績

 ※各種成績は、ここをクリック(pdfファイル)

 【2001年世界選手権】=68kg級

 ▼準決勝
Christine Nordhagen-Vierling(カナダ)○[10−4]●Anita Schaetzle(ドイツ)
Toccara Montgomery(米国)○[フォール、3:13=7-2]●Svetlana Yaroshevich(ロシア)

 ▼3位決定戦
Anita Schaetzle(ドイツ)○[Tフォール、2:16=11-1]●Svetlana Yaroshevich(ロシア)

 ▼決勝
Christine Nordhagen-Vierling(カナダ)○[4−1]●Toccara Montgomery(米国)

 【2001年世界選手権】=75kg級

 ▼準決勝
Bailing Ma(中国)○[3-2=6:09]●Nina Englich(ドイツ)
Edyta Witkowska(ポーランド)○[3−1]●浜口京子(日本)

 ▼3位決定戦
Nina Englich(ドイツ)○[フォール、3:14=4-0]●浜口京子(日本)

 ▼決勝 
Edyta Witkowska(ポーランド)○[6−0]●Bailing Ma(中国)

 【2002年世界選手権】=67kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Lise Golliot - Legrand(フランス)○[Tフォール、2:50=13-3]●Aikaterinii Siavou(ギリシャ)

 ▼準決勝
Lise Golliot - Legrand(フランス)○[3−0]●Ewelina Pruszko(ポーランド)
Katerina Burmistrova(ウクライナ)○[4−0]●Kristie Marano(米国)

 ▼3位決定戦
Kristie Marano(米国)○[6−1]●Ewelina Pruszko(ポーランド)

 ▼決勝
Katerina Burmistrova(ウクライナ)○[3-2=6:48]●Lise Golliot - Legrand(フランス)

 【2002年世界選手権】=72kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Edyta Witkowska(ポーランド)○[7−1]●Katerina Halova(チェコ)
浜口京子(日本)○[Tフォール、2:30=10-0]●Galina Ivanova(ブルガリア)
Xu Wang(中国)○[7−0]●Svetlana Sayenko(ウクライナ)

 ▼準決勝
浜口京子(日本)○[4−0]●Edyta Witkowska(ポーランド)
Xu Wang(中国)○[フォール、3:40=5-0]●Zarife Yildirim(トルコ)

 ▼3位決定戦
Edyta Witkowska(ポーランド)○[2-0=9:00]●Zarife Yildirim(トルコ)

 ▼決勝
浜口京子(日本)○[5−1]●Xu Wang(中国)

 【2003年世界選手権】=67kg級

 ▼準決勝 
Ewelina Pruszko(ポーランド)○[2-2=9:00]●Svetlana Martinenko(ロシア)
Kristie Marano(米国)○[フォール、2:15=6-0]●Shannon Samler(カナダ)

 ▼3位決定戦
Svetlana Martinenko(ロシア)○[4-3=8:07]●Svetlana Martinenko(ロシア)

 ▼決勝
Kristie Marano(米国)○[7−1]●Ewelina Pruszko(ポーランド)

 
【2003年世界選手権】=72kg級

 ▼決勝トーナメント1回戦
Toccara Montgomery(米国)○[フォール、4:40=8-0]●Marina Gastl(オーストリア)
Xu Wang(中国)○[6−1]●Anita Schaetzle(ドイツ)
浜口京子(日本)○[4−0]●Edyta Witkowska(ポーランド)

 ▼準決勝
Toccara Montgomery(米国)○[フォール、2:59=7-1]●Xu Wang(中国)
浜口京子(日本)○[4−2]●Stanka Hristova Zlateva(ブルガリア)

 ▼3位決定戦
Xu Wang(中国)○[フォール、2:39=6-1]●Stanka Hristova Zlateva(ブルガリア)

 ▼決勝
浜口京子(日本)○[4−1]●Toccara Montgomery(米国)




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