【特集】K−1所属で北京五輪を目指す学生四冠王者・田中章仁(専大)




 96kg級の田中章仁(専大=
写真右)が全日本大学グレコローマン選手権を制し、史上6人目の学生四冠王を達成した。ほかに全日本選抜選手権と国体で勝っており、今季6タイトル目。21日からの天皇杯全日本選手権(東京・代々木第二体育館)で勝てば、4連覇達成とともに前人未到ともいえる年間の7大タイトルを独占することになる。得意のフリースタイルは大半がフォールかテクニカルフォール勝ち。かつて重量級で数年にわたって圧倒的強さを誇った谷津嘉章や本田多聞級の強さを見せたといっていい。

 ことしは、アテネ五輪の出場権をあと1秒で逃すというつまずきがあった。2月の五輪第2次予選第2(最終)ステージで、勝てば出場資格獲得の4位以内に入れる地元のボイヤー・ボヤディエフ(ブルガリア)との試合で、あと1秒を守り切れず、延長にもつれて競り負け大魚を失った。この無念さは消えることはないだろうが、今回の快挙で「少しは気持ちが晴れました」という。

 そんな田中が、4月からK−1の所属選手として北京五輪を目指すことになった。一部の報道では、すぐにでもK−1の総合格闘技大会でデビューするかのように書かれたが、総合は「機会があったら、やるかも」という程度の気持ち。レスリングに最大のプライオリティー(優先)を置いて世界での飛躍を誓った。

 福岡・三井高校時代にインターハイや国体で優勝。大学1年生の2001年全日本選手権フリー130`級で、その年の世界選手権代表の藤田尚志をフォールで下して優勝する逸材だった。プロ入りはかなり前からうわさされており、素晴らしい実績を考えるとかなりの“豪傑”というイメージが湧くかもしれない。しかしある関係者は「ハートが優しいですよ。正直なところ、プロに向いているとは言えない性格です」と証言する。

 確かに大言壮語する選手ではない。今回の大会への自信を聞かれても、「自信までは…。1試合1試合を慎重にやってきました」。また、全日本選手権での優勝の気持ちを問われると、「6、7割くらい」とのこと。残る3、4割はマイナス・不安材料があるというより、「大口をたたきたくないから」だという。プロの世界ははったりや相手を“口撃”することが必要になってくるが、田中のハートをもてして、そんな芸当ができるものか。少なくとも4年後まではプロを考えず、アマのレスリング一本でいってほしいと思う人は筆者だけではないだろう。

 通常の体重からすれば今回の96kg級が本来の階級。しかし対戦相手との相性やチーム事情によって120kg級にも出場し、学生四冠王を達成した。全日本選手権は120kg級での出場となる。「世界の96kg級は強豪ぞろい。意外と120kg級に穴があるんです」。確かに、ずんぐりむっくりの体が大きいだけという選手もいるのが120kg級。世界で勝ち抜いてオリンピックの舞台に立つための選択として間違ってはいまい。

 K−1がレスリング選手を擁するのは初めてのことであり、練習だけに専念できるのか、多少の仕事をこなしながら練習するのか詳しいことは聞いていないという。しかし、田中がいい成績を残すことで、K−1のレスリング・サポートも力が入るはず。後輩の強豪選手の進む道をつくる上でも、田中の健闘に期待がかかる。

 まず21日からの全日本選手権で、その強さを存分にアピールしてほしい。
(写真左は全日本大学グレコ選手権決勝)

(取材・文=樋口郁夫)


 ◎田中章仁の今季の成績

 
【明治乳業杯全日本選抜選手権】=フリー120kg級

三者リーグ1回戦 ○[Tフォール、2:08=10-0]新海一樹(明大)
三者リーグ2回戦  BYE
三者リーグ3回戦 ○[4-0=6:06]西田耕一郎(福井県協会)

 【東日本学生リーグ戦】=96kg級

1 回 戦  ○[Tフォール、1:35=10-0]清水尚人(大東大)
2 回 戦  ○[4−0]相沢純(中大)
3 回 戦  ○[フォール、1:23=8-0]小宮聖一(神奈川大)
4 回 戦  ○[Tフォール、1:37=11-0]加賀正祥(東農大)
5 回 戦  ○[Tフォール、3:34=10-0]森山政弘(日体大)
6 回 戦  ○[Tフォール、2:00=10-0]前島信彦(拓大)
7 回 戦  ○[Tフォール、3:36=10-0]新庄寛和(国士大)
5・6位決定戦 ○[フォール、0:51=4-0]安田伊織(早大)

 
【全日本学生選手権】=グレコ96kg級

2 回 戦 ○[判定]岡村龍太郎(拓大)
3 回 戦 ○[判定]吉田年成(専大)
準々決勝 ○[フォール、5:22]米山祥嗣(日体大)
準 決 勝  ○[判定]前島信彦(拓大)
決   勝  ○[判定]轡田健祐(群馬大)

 
【全日本学生選手権】=フリー120kg級

2 回 戦  ○[フォール、0:48]小椋健太(桃山学院大)
準々決勝 ○[Tフォール、1:53]新堀武(東洋大)
準 決 勝  ○[Tフォール、1:52]新海一樹(明大)
決   勝  ○[Tフォール、2:40]岡村龍太郎(拓大)

 
【全日本学生王座決定戦】
 
 ※内容不明=専大は立命館大と対戦。チームとしては1回戦負け。

 
【国民体育大会】=フリー120kg級

2回戦  ○[Tフォール、2:11]前島信彦(長野=拓大)
準決勝 ○[Tフォール、1:02]吉田栄利(三重=一志ゴルフ倶楽部)
決  勝 ○[5−0]吉田清太郎(秋田・秋田市役所)

 
【全日本大学選手権】=フリー120kg級

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[フォール、0:54=6-0]宮崎光弘(日本文理大)
予選3回戦 ○[Tフォール、4:11=10-0]新庄寛和(国士大)
決勝T1回戦 ○[Tフォール、2:46=10-0]中村友之(日大)
準 決 勝  ○[2-1=9:00]杉浦一生(山梨学院大)
決    勝  ○[フォール、1:36=8-0]森山政秀(日体大)

 
【全日本大学グレコローマン選手権】=96kg級

予選1回戦 ○[フォール、0:15=4-0]太田伸(大東大)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[Tフォール、1:58=11-0]磯部栄治(徳山大)
決勝T1回戦 ○[Tフォール、0:31=4-0]猛和巴拉(中京大)
準 決 勝   ○[3−0]前島信彦(拓大)
決    勝   ○[フォール、4:55=9-0]轡田健祐(群馬大)=
写真右




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