「ポーランド・オープン」詳報(コメント、熱戦写真)
全日本女子チームが約2週間の欧州遠征を終えて帰国した。前半のクリッパン国際大会(スウェーデン)では5選手中3選手が、後半の「ポーランド・オープン」では、5選手中4選手が優勝と好成績を挙げ、オリンピック予選となる今年の世界選手権へ向けていい滑り出しを見せた。
「ポーランド・オープン」を取材した宮崎俊哉記者に、各選手の試合内容とと談話をレポートしてもらった(写真も宮崎記者撮影)。
【51kg級・伊調千春(中京女大)】
アレクサンドラ・デンメル(ドイツ) との決勝戦を含め3試合をフォールとテクニカルフォールで勝ち、残る1
試合も9−0。 4試合で失点0と圧勝した。抜群の安定感でスウェーデン・オープンに続き国際大会2
連覇を飾り、51kg級では今や世界に敵なし。
「オリンピック階級でないため、出場選手が少なかったのが残念。もっと強い選手と戦って接戦を経験したかったと思いますが、海外で、外国人選手と戦うことで、試合の中でのリラックスの仕方や冷静な試合運びなどが多くのことを学びました。日本国内のレベルの高さを実感しています。 クイーンズカップでは、この2週間で遠征で得たものをしっかり生かしたいです。51kg級で世界選手権優勝を目指し、12月の全日本選手権からは48kg級に変えて、オリンピック出場を狙います」 |
【55kg級:山本聖子(日大)】
予選1回戦では51kg級欧州チャンピオンのオルガ・スミルノバ(
ロシア) をわずか31秒でフォール勝ちし、いきなり格の違いを見せつけた。予選3回戦では0−0で迎えた後半、得意のクリンチから一気に4ポイントを取り、終わってみれば7-0
の圧勝。
準決勝もフォールで勝ち、決勝は欧州チャンピオンのタチアナ・ラザレバ(
ウクライナ) と対戦。ライバル吉田沙保里( 中京女大)
が昨年の世界選手権で破っている相手だけに負けられない一戦。前半終了間際に1
ポイント獲得したものの、後半開始早々ポイントを許し1−3とリードされたが、4
分過ぎからポイントね4−3で逆転勝ち。クリッパン国際大会(スウェーデン)に続く国際大会2連覇で、完全復活を飾った。
「ケガはもう大丈夫ですが、体力がなかなか戻らずそれが心配でしたが、2大会で優勝できたことで自信がつきました。決勝戦は試合ではなく、ケンカでしたね。髪の毛はつかまれるは、腕を3回もかまれた。それでも、きちんと勝てたことは収穫です。 自分のいけないところ、慎重になり過ぎて動きがとまってしまう点を再確認しました。とてもいい勉強になった遠征だと思います。課題を克服できるよう、もっともっと練習します」 |
【63kg級:伊調馨(愛知・中京女大付高)
欧州チャンピオンのマルゴルザタ・バッサ(
ポーランド) と対戦した予選3回戦の延長、クリンチから体固めで一気に相手をマットにたたきつけ、課題とされたパワーも見せつけた。世界選手権と欧州選手権の上位入賞者がそろったが、5試合中4試合にフォール、テクニカルフォールで勝って優勝。姉妹同時優勝(姉は51kg級の千春)を達成するとともに、世界チャンピオンの貫祿をアピールした。
「疲れました。2週間は本当に長かったけど、いろいろ学びました。クリッパン大会では、昨年の世界選手権でフォール勝ちしたサラ・マクマン(
米国) に負けて、悔しさをバネにしている人がいるんだとつくづく思った。自分もアジア大会の決勝で負けて、その悔しさをバネに世界選手権で勝ったこと思い出しました。負けることは勉強になる。 自分の課題はやっぱり体重とパワー。帰ったらすぐクイーンズカップですが、ここまでやってきたからにはもう日本では負けられません」 |
【67kg級:斉藤紀江(ジャパンビバレッジ)】
予選3試合すべてフォール勝ちをおさめ、日本人トップで決勝進出を決定。決勝では、世界選手権2位、欧州チャンピオンのリセ・レグラン(フランス)に前半3−1とリードするも、逆転負けを喫し、優勝を逃す。
「昨年の世界選手権ではレグランに全く歯が立ちませんでしたが、差は縮められたと思います。一瞬勝てると思ったのが、一番の敗因です。次は必ず勝ちます。この冬、2度海外遠征に出ることができ、外国人選手と数多く試合ができたので何よりもよかったです。 でも、まだまだ。72kg級に変えるのは、今年の世界選手権後にします。67kgで一度も優勝していないので、チャンピオンになってから浜ちゃん( 浜口京子)に挑戦します」 |
【72kg級:浜口京子(ジャパンビバレッジ)】
日本チームの先陣を切って試合に臨んだキャプテンは、予選1回戦で過去3戦3敗のニナ・イングリッシュ(ドイツ)と対戦。両足タックルが次々と決め、相手のタックルを完全に防ぎ5−0と完勝した。続く予選2回戦は、欧州チャンピオンのスベトラーナ・マルチネンコ(ロシア)に顔面を強打され、青アザを作るも終始リードして4−2。
準決勝では、昨年の世界選手権67kg級で優勝したカテリナ・ブルミストロバ(ウクライナ)との世界チャンピオン対決をフォール勝ちで制し、続く決勝でもドイツの新鋭で、01年68kg級世界一のアニータ・シャツルにフォール勝ちし優勝を遂げた。
「優勝にはこだわらず、世界選手権が終わってから自分自身の変わったところが出せたらいいと思っていました。体力的にきつく、強豪がそろう中で2大会とも優勝できホッとしています。自分の力がどれだけ通じるかつかむことができ、自信がつきました。試合までの気持ちの持っていき方など、自分の課題も克服できたと思います。 ドイツチームとは試合だけでなく、いっしょに練習もでき、すごくよかったです。長い遠征でしたが、ケガなく終えることができ、とても大きな収穫がありました」 |
金浜良コーチ(ジャパンビバレッジ)
「外国人選手と数多く戦うことができ、その中でそれぞれの課題を見つけ、本人に伝えることができました。もちろん、全員自分の課題には気づいていると思います。やはり、積極果敢に6分間攻め続けるレスリングが日本のスタイルであり、常にそれを意識して練習し、試合に臨んでもらいたいですね。相手が一発逆転など狙えない、5点差以上の差を早くつけられるような試合運びをすることです。
今回参加した5名の選手には、所属チームではもちろん、代表合宿などでも中心選手として引っ張っていってもらわなければなりません。今回の遠征では、かなりの成果が得られました」
鈴木光監督(ジャパンビバレッジ)
「クリッパン大会での伊調馨選手の取りこぼしを除けば、まずまずの結果と言えるでしょう。でも、油断はできません。今回の遠征でアメリカ、カナダ、ロシアが本格的に強化に取り組み、かなり力を伸ばしてきました。ドイツについては、ベテランと若手の入替時期かなと思いますが、日本も下も育ってきて層が厚くなっています。
個々の選手については、浜口京子が厳しい試合の連続ながら、安定感を見せ2大会とも優勝できたのはかなり評価できます。山本聖子はケガのブランクを感じさせず、実力を発揮。そのうえで自分でも課題を見つけることができたようです。伊調千春はオリンピック階級でないため、強豪がそろいませんでしたが、それを差し引いてもいい具合に伸びてきていますね。
妹の馨は力をつけてきましたが、ベテランを相手にしたときのかけひきなが今後の課題。斉藤紀江は世界選手権のときは全く相手にされなかった世界2位の選手との差を縮めて自信もついたでしょう。
今回の遠征で学んだことをしっかり生かして、クイーンズカップでは十分力を発揮して欲しいと思います」
ビル・メイ記者(地元ポーランドの新聞・テレビからも取材を受けたレスリング・コーチ&ジャーナリスト=プラハ在住、本HPの英語ページ執筆)
「ポ−ランド・オープンはスタートしたばかりで、今年から女子に加え男子フリースタイルも加わったため、大会運営能力にまだまだ問題点がありました。
世界選手権、ヨーロッパ選手権の上位入賞選手が多数集まった女子は、予選リーグから白熱した試合が続く一方、ヨーロッパでの男子フリースタイルの大会には世界的に名の知れた強豪選手が一人も出場しませんでした。個々には面白い対戦もありましたが、フォール勝ちであっさり試合が終了するケースが続出し、初日午前の部は試合数の多い女子を1面でやり、男子に2面を用意した大会組織委員会のプランは完全に見込み違い。女子だけスケジュールが大幅に崩れ、マット変更や午後の部へのズレ込みがあり、選手は大変だったと思います。
しかし、そうした厳しい状況のなかでも全選手決勝戦進出を果たした日本チームは立派でした。鈴木光監督、金浜良コーチともお話しさせていただきましたが、レスリングに対する情熱を感じました。
選手一人一人については、スケジュール変更などで一番振り回された山本聖子選手は本当に大変でしたね。彼女は、スタンドとグラウンド、左右、全てにおいてバランスがよく、技も豊富。無理なことは一切せず、相手のあいているところだけをきっちり攻める。まさに『これがレスリングだ!』と思いました。
浜口京子選手は、昨年の世界選手権、全日本選手権と見ていますが、そのときに比べ一段と動きがよくなったと思います。昨年の世界選手権67kg級で優勝したカトリーナ・ブルミストラバ(
ウクライナ) との世界チャンピオン対決は、もう少し粘られるかと思いましたが、浜口選手の圧勝。力の差を感じました。
伊調千春選手は、もっと強い相手と戦ったときどうなるか見たかったですが、ペースを崩さず、常に攻めていました。レスリングについては全く問題ないでしょう。精神的にもかなり落ちついて、安定しているのがわかりました。
伊調馨選手は、おもしろいですね。よくがんばっています。でも、まだ経験が足りないのか、試合中ヘンなところで焦ってしまったり、波があります。それでも、いいときのタックルは素晴らしい。まだまだこれから。今回のような大会で経験を積めば、もっともっと強くなるでしょう。
斉藤紀江選手も昨年の世界選手権のときと比べ、強くなったと思います。レスリングの形ができてきて、攻撃も防御もわかってきた感じです。フランスのリーズ・ルグラン相手にあれだけやれたんだから、自信を持って。課題は、腕を獲ったらその後どうするか。ただバックに回るだけじゃなく、もっとほかにもあるはず。それができるようになったら、レスリングが変わるでしょう」
《前ページへ戻る》