【特集】ビル・メイの欧州フリースタイル選手権(男女)観戦記

文:ビル・メイ(プラハ在住、元・国士大コーチ)


 5月1〜4日、ラトビアの首都リガで行われた欧州フリースタイル選手権(男女)を初めて観戦しました。世界選手権レベルのいい試合が多く、欧州レスリングのレベルの高さを実感しました。

 一般的な印象として、アジア、アメリカの大陸大会ではレベルの違い過ぎの試合がよくありますが、ヨーロッパ選手権ではどの国の選手も力が均衡しており、その種の試合が少ないと気がしました。第2の世界選手権と考えても良いと思います。

 しかし、ヨーロッパではグレコローマンの方が人気あります。欧州のフリーは、強い人は強いのですが、全体的に普通レベルではないかと思います。それに、構えをやや高くして組んでからのロシアン・スタイルがメーンですから、アジア、アメリカのレスリングを見慣れている人にとっては、動きが少なく、少しつまらないレスリングと言えるかも知りません。

 55kg級のアゼルバイジャンのオリンピック金メダリスト、ナミク・アブデュラエフの試合は一番つまらない。アミラン・カルダノフ(ギリシヤ)との決勝戦では、最初の1分間でタックルとアンクルホールドで3点を取ったあと、守る姿勢になってしまい、試合の興奮感がなくなりました。試合そのものは、4度もパッシブを取られましたが、うまく守り切って、3−1で勝ちました。

 60kg級は混戦で印象が残っている選手がいませんでした。今までの欧州・世界選手権でメダルに手が届かなかったアナトリー・ギデア(ブルガリア)が昨年の王者のアリフ・カマ(トルコ)に3−0で勝ちました。元アジア・チャンピオンで今はロシア代表のラミル・イスラモフはダビッド・ポゴシアン(グルジア)に決勝トーナメント1回戦で負け、5位に終わりました。

 66kg級は若いイルベク・ファルニエフ(ロシア)とベテランのエルブラス・テデエフ(ウクライナ)の決勝となり、この大会で一番興奮した試合になりました。一昨年のヨーロッパ2位のファルニエフは最初の1分間で足首取りとローリングして3−0とリードしました。昨年の世界チャンピオンのテデエフは脇くぐりで1点を返し、第1ピリオド終了間際にローシングルに入りましたが、粘られてポイントとはなりませんでした。

 第2ピリオドに入ってテデエフは2点目を取りましたが、その後、2、3度試みたタックルはいずれもファルニエフのカウンターを受けたり、粘られたりでポイントになりませんでした。テデエフは最後にハイ・クラッチ(頭が外に出る片足タックル)に入りましたが、ファルニエフはトーホ−ルドで反撃しノー・ポイントのままで試合終了。1点差で優勝しました。

 一昨年に欧州・世界のニ冠を取ったセラフィン・バルザコフ(ブルガリア)は3位決定戦にまわり、オエマー・クブキュ(トルコ)と2−2のフルタイムの判定で敗れ4位に終わりました。

 74kg級では、大ベテランのアレクサンダー・レイポルド(ドイツ=
右写真)がまだうまくやっています。決勝でアルパド・リッター(ハンガリー)に負けましたが、試合はほとんどレイポルドのペースでした。リッターのポイントはすべて微妙な判定でした。

 このクラス(前76kg級)はロシアのブバイサ・サイキエフが圧倒的な強さを見せていた階級です。今回のロシア代表は昨年66kg級で優勝したザウル・ボタエフでしたが、身体はまだこの階級にしては小さ過ぎて、準決勝と3位決定戦では得意の大内刈りは決められず、4位に終わりました。サイキエフは毎日会場来ていました。ことしの世界選手権は出てくるでしょうか。

 84kg級は一昨年まで76kg級に出ていたレバス・ミドラシビリ(グルジア)が、1999年ジュニア世界チャンピオンのバディム・ラリエフ(ロシア)に大内刈りとアンクルホールドで5−1で勝つなどして優勝しました。

 一昨年のジュニア世界王者のガジモウラド・ガチャロフ(ロシア)は96kg級に出場。準々決勝で昨年の世界チャンピオンのエルダリ・クルタニーゼ(グルジア)にクリンチの反則で勝つなどして優勝しました。2−2で6分間を終わり、クルタニーゼがクリンチをそりましたが、審判が2ポイント・パッシブを上げて、試合が終わってしまいました。

  120kg級優勝は、シドニー五輪金メダルのあと欧州・世界とも2年連続で勝っているロシアのダビド・ムスルベス
(左写真)でした。圧倒的と言う印象はないのですが、簡単に判定勝ちを重ねました。

 女子の部では、「オリンピック階級」でいいい試合が相次ぎましたが、オリンピックで実施されない3階級は「ノー・3・級」(No Thank You)でした(つまらないジョークをごめんなさい!!)。強豪はオリンピックを意識して階級を上下したのでしょう、エントリーが少なく、五輪階級でない3階級に出場した世界・欧州チャンピオンはリセ・ゴリオット・レグランド(67kg級=フランス)とエベリナ・プルスコ(同=ポーランド)だけでした。

 五輪階級で一番活気があったのは55kg級でした。昨年のの51kg級の優勝のソフィア・ポウボウリドウ(ギリシヤ=
右写真)と同階級の銅メダリストのナタリア・ゴルツ(ロシア)がともに1階級アップをものともせずに勝ち進みました。17歳のゴルツは昨年の世界選手権と比べ、上半身が大きく見えて、その上、いいレスリング・センスも見せました。準決勝では、59kg級から落ちてきたドイツのクリスチーナ・オエルティル(ドイツ)に対して、忍耐強いのスタイルを見せて無理しないようにして戦い、延長フルタイムを戦って2−1で勝ちました。

 逆に、決勝戦では、背の低いポウボウリドウに対して、がぶりを3度取って疲れさせ、そのあとパッシブでパーテールポジションのチャンスをつかんで、エビ固めを決め、フォールで優勝しました。

 大会の「ミス・レスリング」に選ばれたゴルツは昨年に比べて明らかに強くなっていましたが、3月にスーエデンで行われたクリッパン国際大会で日本の山本聖子(ジャパンビバレッジ)に負けたこともあるし、ロシアン・スタイルの構えで、まだ日本の一軍選手に対しては太刀打ちできないだろうと思いますが、9月の世界選手権(ニューヨーク)での活躍を楽しみにしています。

 63kg級では、59kg級の世界チャンピオンのアレナ・カルタコバ(ロシア)が出場してきましたが、ノルウェーのレネ・アーンズにパワーに負けし予選突破はなりませんでした。アーンズは国際大会のメジャー・イベントの14度目で初めて「優勝」を飾りました。今までの世界・欧州選手権では銀メダルか銅メダルを10十個も取っていますが、金メダルがありませんでした。

 世界V5のニコラ・ハートマン(オーストリア)と世界V2のサラ・エリクソン(スウェーデン)のベテラン2人は、それぞれ2位と3位に入りました。まだまだうまく戦えると思います。一方で4位になった世界学生チャンピオンのマルゴルザタ・バッサ(ポーランド)はスランプ中と気がします。

 48kg級はブリジット・ワグナー(ドイツ=
左写真)が勝ち、世界チャンピオンのメンツを守りました。3月の「ポーランド・オープン」で負けたロシアのリリア・カスカラコバにリベンジして、初めてヨーロッパのシニア大会で優勝しました。


 ドイツのチームメートのアニータ・シャツルは72kg級に出場し、4試合で3度のテクニカルフォールを決め手優勝しました。この階級には欧州チャンピオンのスベトラーナ・マルチネンコ(ロシア)と元世界チャンピオンのエディタ・ビトコウスカ(ポーランド)が出ておらず、やや層が薄い中での戦いという気がしました。

 準優勝のカテリナ・ハロバはチェコ女子初の世界・欧州選手権の銀メダリストになりました。4位に終わったもののブルガリアのスタンカ・フリストバは強くなりそうな予感を感じました



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