【特集】松本慎吾(一宮運輸)が欧州武者修行に出発




 5月1〜2日の明治乳業カップ全日本選抜選手権で圧勝し、文句なしのV4を達成。世界選手権(10月、フランス)出場を決めたグレコローマン84kg級の松本慎吾(25=一宮運輸)が5月21日、約3か月にわたるヨーロッパへの武者修行へ出発した。(写真右=左が松本。右は見送りの伊藤広道・全日本コーチ)

 23日からモンテネグロ(旧ユーゴスラビア)での欧州グレコローマン選手権を視察したあと、ウクライナ、ドイツ、ハンガリーとまわる予定。前々から希望していた海外での練習が今回かなった。

 「強いヨーロッパ勢と、できるだけスパーリングをこなしてきたいですね」と、出国手続きであわただしいにもかかわらず、ていねいな受け答え。「これまで空港でインタビューを受けるときは、ブレザーを着てチームのみんなと一緒でした。私服姿というのは、ちょっと照れくさいし緊張しますね」と、初の単独武者修行らしい、初々しさも見せた。

 たった1人で長期の海外修行へ出かけるのは、プロレス界ではよくある。日本でも、新日本プロレス闘魂クラブ所属だった中西学や藤田和之(ともに現プロレスラー)が米国やトルコに1か月ほど滞在して鍛えたことはあるが、日本協会がこうした形で選手を派遣するのは初。期待の高さと言えるだろう。

 しかし、現在の松本の実力を考えれば当然の成り行きだ。昨年9月の世界選手権(モスクワ)では五輪V2のハムザ・イェルリカヤ(トルコ)と大激戦を演じ
(写真左)、続く釜山アジア大会では日本で唯一の金メダルを獲得。国内でも圧勝続き。練習相手がいない日本にいては実力アップが望めないのだ。

 「日本人では僕をリフトする選手はいないけど、海外はそんな選手ばっかり。だからリフト技とローリングに重点を置いて練習したい。それにまだグラウンドのディフェンス面が、外国人に比べると引けをとっているので、ディフェンスの能力を上げたい。攻撃では、得意の俵返しをどんな体勢からでも出せるように、考えながらやってきたいですね」

 「練習以外のプライベートタイムで、何かしてみたいことは?」という問いには、「普通の旅行では行かない国なので、文化も吸収してヨーロッパ勢の強さの秘密を探りたい」。すべてをレスリングに結びつけ、あくまでもレスリングオンリーの3か月にするつもりだ。

 シドニー五輪では、国内予選を勝ち抜いたものの、その後の世界予選の突破ならず、悔し涙を飲んだ。今回こそとの思いには、悲壮な決意と覚悟がにじむ。「シドニー五輪の時は、すごく悔しい思いをしたの。この3か月間を大切にして、10月の世界選手権(アテネ五輪第1次予選)で、五輪の出場権を一発で獲得したい。アテネでは絶対に一番いい色のメダルを獲ります」。ここまできっぱりと言い切れる男子選手は久しぶりのことだ。

 新型肺炎SARSが連日ニュースで取り上げる中での出発に、愛媛に住む家族からも心配されたようだが、「チームドクターからマスクをいっぱいもらってきたので、大丈夫です」とのこと。3か月後、松本がいっそうたくましくなって帰ってくることを期待しよう。

(取材・文/松本幸代=松本選手と同姓ですが、血縁関係はありません)



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