【特集】世界選手権に挑む(1)…フリー55kg級・田南部力



 日本フリースタイル・チームで一番メダルに近い場所にいるのが55kg級の田南部力(警視庁)だ。昨年は世界6位とアジア大会2位。ソ連が分かれて群雄割拠となった現在、世界の8位以内につけていれば、優勝の可能性があるのが現実。前年に組み合わせの不運もあって20位以下に沈んでいた選手が優勝した例もある。いまの田南部には、五輪出場資格やメダルのみならず、金メダルを狙っていいだけの実力がある。

 田南部も、世界における自分のポジションがトップレベルにいることは承知済み。自分と同じくらいの位置にいる選手として、
ナミク・アブデュラエフ(アゼルバイジャン=02年世界2位)、ステフェン・アバス(米国=02・03年ワールドカップ優勝)、ネ・モンテロ(キューバ=02年世界王者)、ディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン=02年アジア大会)の4人を挙げる。

 これらの選手とは、できれば予選で同じブロックになりたくないと思うのが普通だが、「いえ、予選で当たってもいいです。どちらにしても、勝たなければならない相手ですから」という言葉が出るあたりは、ずばり金メダルを狙っている!

 田南部が世界のトップに踊り出たのが、2000年2月に東京で行われたシドニー五輪予選で
ナミク・アブデュラエフ(アゼルバイジャン)を破っての優勝だった。アブデュラエフは96年アトランタ五輪52kg級2位を筆頭に世界のトップレスラーの1人。シドニー五輪はこのアブデュラエフが優勝しているのだから、田南部の実力は五輪チャンピオン級だったと言っても間違いではない。

 さらに2001年2月にキューバの「セーロ・ペラド国際大会」、02年7月と03年7月にロシアであった「ベログラゾフ国際大会」でも2年連続優勝と、「優勝」の味を経験していることが大きな財産。ことし2月のデーブ・シュルツ国際大会では現役世界チャンピオンの
レネ・モンテロ(キューバ)を破り、シドニー五輪2位のサムエル・ヘンソン(米国)に2−3の大激戦。自らの力が世界のトップにあるという実感は、いきがりでも何でもない。

 最近負けたのは、
アダム・アチロフ(ウズベキスタン=02年世界4位)に3−5、ディルショド・マンスロフ(ウズベキスタン=01年世界7位)に1−3、前述のサムエル・ヘンソン(米国)に2−3と、いずれも接戦。誰が相手でも大量失点することのない実力を持っている。

 これまで3度戦って1度も勝ったことのなかった
モウレン・マミロフ(カザフスタン=アトランタ五輪3位)には、アジア大会で4−2で勝利。ことし7月のベログラゾフ国際大会では。01年欧州王者のティルバヤ・ゲニニアディ(モルドバ)に6−0、アジア大会3位のモハマド・レザエイ(イラン)に7−3で勝つなど、安定度を増している。

 田南部はライバルとして挙げた4選手に勝つために、「失点を絶対に2点以内に押さえること」を挙げる。3点以上を取られてしまうと相手も守りに入るので、「かなり厳しい戦いをしいられる」と言う。また、これといった打開策も見い出せていない様子。「自分自身が焦り、あきらめの気持ちが出てしまうのが怖い」とも話す。

 あらゆるケースを想定して技や戦術を身につけるのは強者の条件。田南部も、昨年のアジア大会決勝でいきなり3点を取られて追いつかなかった苦い経験をもとに、守りに入った選手に対する何らかの対策は練っているだろう。しかし、そうしたパターンにならないにこしたことはない。「失点は2点以内」という気持ちがどの試合でも実現できれば、田南部の首に金メダルがかけられるシーンが現実のものとなる。

 大学3年生の時の1996年全日本選手権で、ノーマークから勝ち上がって優勝。華々しく日本のトップに踊り出た田南部も、もう28歳。猛練習だけがすべてではない世代に突入した。適度に休み、「最高のリラックス方法」と言う子供との団らんも織り交ぜながら、アテネ五輪までを突っ走るべきだろう。

 この点に関しては、心強い味方がいる。「和田貴広コーチのシドニー五輪のときが、いまのボクの年齢。いろんな部分で分かってもらえます。練習の量じゃなく、集中です。試合で実力を出し切ることです」。まずニューヨークでの金メダル獲得へ向う。(取材・文・写真/樋口郁夫)


 【田南部力の最近の国際大会成績】

 《2000年》

 【シドニー五輪予選第2ステージ第1戦】=8位
予選1回戦 ○[4−2] Mikhail Japaridze(カナダ)
予選2回戦 ○[7−3] Gotcha Kiritadze(グルジア)
予選3回戦 ●[2−3] German Kontoev(ベラルーシ)

 【シドニー五輪予選第2ステージ第2戦】=4位
予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[8−1] Armen Simonyan(アルメニア)
予選3回戦 ○[8−3] Eric John Akin(米国)
決勝T1回戦 ○[6−0] David Legrand(フランス)
準 決 勝  ●[1−5] Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)
3位決定戦 ●[0−3] Nurdin Donbaev(キルギスタン)

 【シドニー五輪予選第2ステージ第1戦】=優勝
予選1回戦 ○[Tフォール、1:24=10-0] Chen Jui-Hsien(台湾)
予選2回戦 ○[Tフォール、4:53=13-2] David Legrand(フランス)
予選3回戦  BYE
準 決 勝  ○[2-2=9:00] Nurdin Donbaev(キルギスタン)
決    勝  ○[3−1] Namik Abdullaev(アゼルバイジャン)

 【シドニー五輪】=10位
予選1回戦 ○[8−2] Moon Myung-Seok(韓国)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ●[1−9] Samuel Henson(米国)

 《2001年》

 【セーロ・ペラド国際大会】=優勝
予選1回戦 ○[5−0]May Williams Rolguez(キューバ)
予選2回戦 ○[11−3]Yogly Bonne(キューバ)
予選3回戦 ○[3−2]Luis Ibanez(キューバ)
準  決  勝 ○[12−6]Yunier Fernandez(キューバ)
決     勝 ○[Tフォール、10-0]May Williams(キューバ)

 【東アジア大会】=3位
B組1回戦   BYE
B組1回戦 ●[2−4]Mamyrov Maulen(カザフスタン)
B組2回戦 ○[フォール、2:57=7-2]Kim Hyo-Sub(韓国) 
3位決定戦 ○[フォール、2:57=7-5]Enkhtor Badaasaikhan(モンゴル) 

 《2002年》

 【ベログラゾフ国際大会】=優勝
予選1回戦  BYE
予選2回戦   ○[Tフォール、11-0] Vitalii Kobyev(ロシア)
予選3回戦   ○[3−1] Ayal Pavlov(ロシア)
決勝T予備戦 ○[3−0] 平井進悟(日本)
準  決  勝  ○[フォール] Morgen Samra(ロシア)
決      勝  ○[9−0] Lvan Pantiev(ロシア)

 【世界選手権】=6位
予選1回戦  ○[Tフォール、1:45=10-0] Hector Luis Camacho R.(ベネズエラ)
予選2回戦  ○[3−2=7:39] Ivan Velkov Dyorev(ブルガリア)
予選3回戦   BYE
決勝T1回戦 ●[3−5] Adam Achilov(ウズベキスタン)

 【アジア大会】=2位
予選1回戦 ○[3−2] Nurdin Donbaev(キルギスタン)
予選2回戦 ○[6−2] Shankar, Kirpa(インド)
予選3回戦 ○[フォール、1:36=10-0]. Seidow, Rowshan (トルクメニスタン)
準 決 勝  ○[4−2] Mamyrov Maulen(カザフスタン)
決    勝  ●[1−3] Mansurov, Dilshod(ウズベキスタン)

 《2003年》

 【デーブ・シュルツ杯】=2位
予選1回戦 ○[7−1] Alexandr Kaminski(ベラルーシ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[7−0] Eric Albarracin(米国)
準 決 勝  ○[3−2] Rene Montero(キューバ)
決    勝  ●[2−3] Sammie Henson(米国)

 【セルゲイ国際大会】=優勝
予選1回戦    BYE
予選2回戦  ○[7−3] Mohammad Rezai (イラン)
予選3回戦  ○[Tフォール、3:20] Talgat Jaiwenov(カザフスタン)
決勝T1回戦 ○[5−2] Nyrzad Babak,(イラン)
準 決 勝   ○[6−0] Geniadii Tilbya(モルドバ)
決    勝   ○[Tフォール、10-0] Sanaa Meegen(ロシア)




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