【特集】田南部力が元世界王者撃破の殊勲



 世界王者経験者が初戦の組み合わせになるのは、決していい気持ちはしないはず。特に最近の男子の成績からすれば、コーチ陣にその気持ちがないと言えばウソになるだろう。しかし今の田南部に対しては、その気持ちは、あったとしても決して強くはない。試合前の日本チームには、「やってやろうじゃないか」という空気が充満していた。

 それは田南部も同じだった。最近の世界の強豪との対戦結果と内容からすれば、2年前の世界王者といえども恐れることはなかった。試合は開始から積極的に攻めた。タックル。これは返されて2−2となったが、続いてパッシブを取る積極さ。ローリングを決めて4−2とした。

 第1ピリオド終了間際に、タックルを受けて場外に出たのが「場外逃避」の警告となり、4−3。日本陣営が判定に不満をぶつけるが、受け入れられない。

 第2ピリオド、やや守ってしまった田南部はパッシブを取られ、パーテールポジション。体を持ち上げられトルコ刈りのように攻められ、5秒ルールも加わって5−8とされた。しかし今の田南部に「あきらめる」のいう気持ちはない。強烈なタックルで3点。返されてしまって2点を失ったが、すぐにグラウンドで攻め、スコアは10−10。

 勝負をかけたアンクルホールド
(写真右)が、かかりそうでなかなかかからない。セコンドの絶叫のサポートを受けてこん身の力をこめると、相手の体が返り、11−10として残り30秒。ここまでくれば無理な攻撃をせずにしのぎ、初戦の難関を突破した。

 11−10という、失点の少ない田南部らしからぬ勝利に、試合後はちょっぴり苦笑い。「もっと楽に勝てると思っていたんですよ。相手は捨て身できましたね」と振り返った。絶対に勝てるとふんでのマットだったのだ。

 思わぬ展開となっても勝った自信が大きいか、反省することの方が多いのか。試合後の興奮状態のときには何とも答えられなかったが、元世界王者を撃破したことは間違いない事実。次に勝てば五輪出場資格が手に入るが、そんなレベルを目標にするレベルではない。目標はズバリ、金メダル。今の田南部には、その実力があるし、その勢いもついたことは間違いない。

 





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