【特集】宿敵を粉砕! 自信取り戻した浜口京子




 今月3〜9日に行われた全日本チームと全米チームの合同合宿(米国コロラド州コロラドスプリングス)で、先月のワールドカップ(W杯=東京)でつまずいた女子72kg級の浜口京子(ジャパンビバレッジ)が宿敵にしっかりとリベンジした。(写真は12日の帰国時)

 コロラドスプリングスは標高1700メートルの高地で、同州のボルダ−は女子マラソンの高橋尚子選手がトレーニングを積むところとして有名。慣れない人は普通に階段を昇っても息が上がるとまでいわれ、心肺機能の向上に最適の地。日本チームは、五輪で最大のライバルになるであろう米国選手と練習のほか、十分なスタミナ作りを目的とした。

 しかしW杯で屈辱の2敗を喫した浜口は、スタミナ作り以上にモンゴメリへのリベンジを胸に同地へ向かった。負けた相手の1人のクリスティン・ノードハゲン(カナダ)には、W杯直後に国立スポーツ科学センターで行われた世界合宿できっちりと“お返し”を果たしたが、モンゴメリは大学の授業のため世界合宿には不参加。リベンジ魂を燃やすことができず、もどかしさがあった。

 プロボクシングでは、ライバルのジムに行って宿敵と手合わせすることはほとんどないが、大相撲ではよくあること。生きのいい若手が出てくると、上の力士はけいこ場で徹底的にやっつけ、本場所で精神的優位を作ろうとする。名横綱といわれた大鵬も千代の富士も、このやり方でライバルをたたきつぶした。

 最近では、横綱朝青龍が本場所で負けた高見盛をけいこ場でボロぞうきんのようにし、次の場所で圧勝している。つい先日もバックドロップまがいの技で土俵にたたきつけ容赦ない。不動の王者に君臨するには、ここまで非情に徹することが必要だ。

 競技人口の少ないレスリングもライバルと手合わせすることはよくある。実は浜口も、このやり方でライバルの1人を“つぶして”いる。01年世界選手権(ブルガリア)で負けたエディタ・ビトコウスカ(ポーランド)が翌年の世界合宿で来日するや、誰よりも先にスパーリングを求め、タックルで倒し、グラウンドで締め上げ、嫌というほど辛酸をなめさせた。同年の世界選手権(ギリシャ)、ことしの世界選手権(米国)で浜口と相対したビトコウスカは、ヘビににらまれたカエル状態。戦う前から勝負は決まっていた。

 モンゴメリに対しても同じことがいえる。練習でたたきつぶしておけば、アテネ五輪での対戦はぐっと有利になる。モンゴメリはオハイオ州クリーブランドのカンバーランド大学に通う学生で、今回の合宿に来るかどうか懸念されたが、7−9日の週末に参加し、浜口とのスパーリングが実現した。

 鈴木光監督によると、浜口は最初、相手を意識しすぎて「ガチガチになっていた」とのこと。そのため自分の動きができずポイントを許したりもしたという。しかし相手の力が分かり、リラックスできてからは地力をフルに発揮。1日1本か2本のスパーリングだったが、3日間戦ってみて「スタンドでは互角以上、グラウンドでは1度も返されなかった。落ち着いてやれば負ける相手でないことが分かった」(浜口)と、自信を持つのに十分な内容だった。

 浜口の発奮材料は、モンゴメリの練習態度にもあった。手を抜くことがよくあり、熱心とはいえなかったという。口には出さなかった「こんなヤツに負けるはずがない! 負けててたまるか!」という気持ちが湧き上がってきたようだ。

 9月14日に5度目の世界一に輝いたあと、1か月もしない間に屈辱を味わった。しかし、また1か月もしないうちに、それらのほとんどを払しょくした。アテネ五輪まで、公式戦でモンゴメリと手合わせする機会があるかどうかは分からないが、宿敵に対して大きな自信を持ったことは確か。成果のあった米国遠征だった。



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