【特集】世界一奪還へ向け“一人立ち”を宣言…浜口京子



 世界一奪還を目指す女子72kg級の浜口京子(浜口ジム)が、再スタートとなる「ショーブ女子国際大会」(1月19〜20日、フランス・トゥールコアン)で優勝
(写真右)。「親子鷹」を封印し、“独立して新たな道を歩み始めた。

 「ショーブ女子国際大会」の3試合では、どれも1分以内の圧勝だった。昨年11月の世界女子選手権(ブルガリア・ソフィア)の準決勝で敗れた世界チャンピオンのエディタ・ヴィトコウスカ(ポーランド)は出てこなかったが、欧州でも3月のクリッパン女子国際大会(スウェーデン)と並んで強豪が集まる大会だけに、やはり浜口の力は飛び抜けているといえよう。

 しかし、優勝したにもかかわらず、浜口の表情はやや曇っていた。フランス大会の翌日にドイツ・フランクフルトで行われたドイツと日本のデュアルミート(対抗戦)で、1階級下の選手に苦戦を強いられたからだ。このデュアルミートでは、世界女子選手権の3位決定戦で敗れたニナ・イングリッシュが対戦相手として組まれていたが、ひざの手術後のため、68kg級で世界3位に入ったアニータ・シャツル
(写真左)が対戦相手となった。

 シャツルは2か月前の世界選手権では、柔道出身の斉藤紀江(ジャパンビバレッジ)に投げ技を何度も決めて快勝するなど、投げ技を得意とする選手。浜口も序盤にこの術中にはまり、0−3とリードされる苦しい試合となった。何度もがぶって攻撃する浜口だが、場外へ逃げられるなどし、ポイントが取れない。鈴木光監督(ジャパンビバレッジ)は「バックへ回って、まず1ポイント、というレスリングに徹すれば違った展開になったと思う。しかし、一気に2ポイントを取ろうという気持ちが強すぎて、逆にポイントを取れなかった」と分析する。

 それでも辛うじてポイントを重ね、ラスト5秒の段階で同点に追いつき、延長へもつれた。そうなれば、地力でまさる浜口のもの。冷静に試合を組み立て、決勝ポイントをあっさり奪って振り切った。「地の力は浜口の方がずっと上」とは鈴木監督の言葉。リードされたことで生じた焦りのため、思うようにポイントが取れなかっただけのことで、“1階級下の選手に苦戦”ということにさほどの心配はいらないようだ。

 逆に考えれば、どんなに実力差があっても、焦ってきちんとした攻撃の組み立てができなければ勝つことはできないということ。世界一になってからの浜口は、リードされる経験がなかったので、その状況に面して、どうしていいか分からない部分があった。一昨年のクリスチン・ノードハゲン(カナダ)の敗戦は、まさにそのパターンで、0−4からいったん4−4に追いつきながら、第2ピリオドに入って1ポイントをリードされると、我を忘れたような無謀な攻撃を繰り返し、傷口を広げてしまった。

 浜口は「リードされても、あきらめずに攻め続けることができたのは進歩」と振り返った。この“あきらめない”ということも大事だが、リードされても自分のレスリングを忘れなければ、もっと楽に追いつき逆転できることが体で分かれば、いっそうの進歩が期待できるだろう。

 今回は、世界女子選手権の2試合の敗戦の原因となったコンタクト・ポジションからの攻防に機会はなかったが、これもしっかりと身につけるには、実戦を積むしかない。「(フランス大会では)もっと戦いたかった。物足りない」と満足していない浜口は、「これからは、1人ででも出られる限り外国に出て大会に出たい。どこでもいいので、レベルの高い大会に出て、強い選手ならだれとでもやりたい」ときっぱり。

 これまでは父親・アニマル浜口との二人三脚がクローズアップされてきたが、真の世界女王になるために、今後は一人立ち≠キることを宣言し、単独での武者修行を積極的に実行する予定だ。2年後のアテネ五輪に照準を合わせ、「技を覚えたい」と向上心は増すばかり。世界一への再挑戦が力強く始まった。



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