【特集】課題は新階級区分における勝利の見通し…欧州遠征



 2月18日、ブッシュ米大統領の来日で厳戒の警備体制を敷いている成田空港から、フリースタイルの全日本チームが約3週間のヨーロッパ遠征へ出発した。キエフ国際大会(ウクライナ)を皮切りに、ヤシャドク国際大会(トルコ)、ヤリギン国際大会(ロシア)と3つの国際大会を転戦する。

 いずれの大会も2kgオーバーの計量だが、新階級では初めての大会参加となる。今冬の遠征は、ヨーロッパ選手相手を中心にレスリングの経験を積むことはもちろん、新階級の様子を探ることも重要な目的となりそうだ。

 シドニー五輪63kg級代表の宮田和幸(クリナップ)は、旧階級で63kg級から69kg級へアップして間がなかった。そのため、新階級での66kg級は減量や筋力強化の負担が軽減される見込みで、この階級区分変更は幸いに作用しそう。69kg級で出場した昨年の世界選手権では、予選で敗れたとはいえ、同大会2位のタバコリアン(イラン)を終盤までリードするなど次へつながる内容を残した。世界トップレベルとの差はないとの自覚から「今回は勝ちに行きます」と遠征への抱負も強気だ。

 小幡邦彦(山梨学院大)は減量の負担がこれまでより大きくなった。76kg級から74kg級と2kg減ることで、試合がスピードアップすることを予想している。「できれば勝ちたいですが」と前置きをした上で、「新階級に慣れてきます」と控えめに目標を口にした。

 2kgオーバー計量のため、諸外国が新階級へどのように対応してくるか読みづらいが、例年、世界選手権に引けをとらない高レベルの3大会に出場する意義は大きい。世界選手権の経験もない若手が中心の派遣というのも、今回の遠征の特徴だ。シドニー五輪後に、代表選手の世代交代がある程度進んだが、世界のトップレベルを相手に結果を出せる水準にはまだ達していない。

 日本チームの状況を把握した上で、危機感を抱いている富山英明監督のビジョンは「経験が浅い選手は、外国選手に対して『強い』という漠然としたイメージにとらわれている。実は、思っているほど差がないのだと気づいていない。今回は、外国選手の本当の実力を体で覚えるよい機会だと思う。アテネ五輪は、本当は目の前に来ている。レスリングのトップレベルはヨーロッパ中心に流れていることだけは変わらないが、新階級での見通しをたてる材料がまだない。今回の遠征では、できるだけその見通しを立てた上で、確実に勝て、成績を残せる方法を見出してきたい」と明快だ。

 シドニー五輪では、永田克彦(新日本プロレス職、当時警視庁=グレコ69kg級)の銀メダル獲得でレスリング競技としてのメダル確保の伝統は保ったものの、フリースタイルのメダルは途切れた。途切れたメダルを取り戻すための準備時間はまだある。3月には、アテネ五輪への道筋が今までよりはっきりと見えて帰国してくるはずだ。





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