【特集】「とにかく韓国に勝ちたかった」…グレコ84kg級・松本慎吾



 キム・ユンサブとの決勝戦。松本は微妙な判定で3点を失った。昨年のアジア選手権(モンゴル)決勝も、韓国選手相手に微妙な判定で敗れていた。アジアの試合では、アジア連盟の会長と国際審判の権威のいる韓国の選手相手には、微妙な技はすべて韓国有利にとられると考えなければならない。まして韓国での試合。判定に猛抗議する伊藤広道コーチに、応援団からの強烈な非難のヤジが飛んだ。

 しかし松本は冷静だった。「得意の俵返しで逆転できる自信がありましたから」。その言葉通り3−3へ。松本にとっては、準決勝に続く2試合連続の延長となったが、スタミナは切れていなかった。一方のキムはただ後退するばかり。その浮き始めた腰にしがみつき、振り回すような投げ。勝負を決め、高々とこぶしを突き上げた。

 「うれしかったです。皆さんの応援のおかげです」と、日本から駆けつけた応援団に感謝を表した松本。「相手は地元なので、声援を受けて前半飛ばしてきた。後半は自分のペースをつかめると思いました」と、リードされても冷静に試合展開を組み立てる余裕があった。伊藤コーチは「不利な判定で腐る選手もいる。松本がよかったのは、ハートでしょう」と振り返る。

 2週間前に行われた世界選手権(モスクワ)はベスト8が目標だった。五輪V2のハムザ・イェルリカヤ(トルコ)と同じリーグになったため、この目標は達成できなかったが、すぐにアジア王者へと目標を切り替えた。「とにかく韓国の選手に勝ちたかった。気持ちはずっとピークのままでした」。いまや世界の一大勢力となっている韓国を倒すことは、世界でも勝てる力を身につけたことにもなる。

次の目標はアテネ五輪の第1次予選でもある来年の世界選手権(フランス)。24歳の若獅子は「オリンピックでメダルを狙うためにも、何が何でも一発で出場資格(10位以内)を取って来ます」と気合をこめた。そのためにも「欧州選手にも勝ちたい」と多くの国際大会出場を望んだ。

(取材・宮崎俊哉)



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