【特集】「決勝戦はちょっと違っていました」…女子63kg級・伊調馨



 攻めては、いいように返されてしまい、スコアボードの数字は1−6となっていた。伊調はその得点板を目を細めてにらんだ。残り3分。逆転して金メダルを取る可能性にかけて第2ピリオドへ向かったが、5−6まで追い上げるのが精いっぱいだった。国際大会初出場での銀メダル。「殊勲」という気持ちにはなれなかった。「金じゃないとダメなんです」。表彰式でも笑顔が浮かぶことはなかった。

 日本女子に義務付けられた3個の金メダル。その先陣を切るのが18歳の伊調だったことは、やや荷が重かったのだろうか。「やっぱり決勝戦はちょっと違っていました。中国はライバル。負けちゃいけない、という気持ちが強すぎたのかもしれません。守るときに、きちんと守れなかった」。大舞台のプレッシャーは、知らず知らずのうちに若い伊調の心に忍び込んでいた。

 ハンディはあった。通常体重は59kgで、本来なら59kg級に、あるいは55kg級に出場すべき体重だ。しかし今後の体の成長とアテネ五輪の実施階級ということで63kg級を選んだ。相手のシュは通常で65kg。腕も脚も伊調よりひと回り大きい。タックルに入っても続く攻撃で攻め切ることができず、技を返されてしまった。「重く感じました」という伊調の言葉が、両者の体格差を物語っていた。

 高校の監督でもある栄和人コーチは、報道陣に「初めての国際大会で銀メダルは立派でしょ」と言ってかばった。だが悔しさいっぱいの18歳が、そんな慰めが受け入れるはずもない。「トレーニングをして、もっと筋肉をつけないと(技を)取り切れません。とりあえず、次の世界選手権(11月2〜3日、ギリシア)で借りを返し、世界ナンバーワンを目指します」と唇をかみしめた。

(取材・宮崎俊哉)



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