【特集】「世界の強豪に勝てて大きな自信」…女子55kg級・吉田沙保里


 04年アテネ五輪で採用されることにともない、今回のアジア大会でも実施された女子で55kg級の吉田沙保里(中京女大)が日本選手の金メダル第1号となった。初戦で昨年のアジア・チャンピオンのサン・ドンメイ(中国)に圧勝。「アジアってこんなもんか」と思えたことで、リラックスにつながった。

 この日のリー・ナラエ(韓国)との最終試合では開始早々に1点を許してしまう不覚のスタート。しかし「ちょっと気負って体を入れ替えられただけ。攻めていたので気にしなかった」と焦りはなかった。むしろ平常心に戻るにはいい失点だったかもしれない。この後、たたみこむような攻撃が始まり、開始から1分39秒後、スコアボードの吉田のポイント欄には「11」という数字がともされていた。

 勝てばやると決めていた後方宙返りで喜びを表す20歳は「最高です。こんな大きな大会で優勝するのは幸せです」と第一声。これまで国際舞台では、フランスでの国際大会をはじめ世界カデット選手権、世界ジュニア選手権、世界学生選手権と優勝を重ねてきたが、総合大会となるアジア大会での優勝は格別の様子。「みんなの応援が力になりました。本当に感謝しています」。栄和人コーチと金浜良コーチにかつがれ、日の丸の旗をマント代わりにして応援団に手を振る表情は、心の底から優勝を喜んでいるようだった。

 大会前に足首を痛めて練習が思うようにできなかった。この間、筋力トレーニングに力を入れることでしのいできたが、パワーアップを感じその成果を実感した大会でもあった。4試合でかかった時間は7分49秒で、スコアは28−1。文句のない圧勝優勝は11月2、3日の世界女子選手権(ギリシア・ハルキダ)での優勝も十分に期待できる。

 ライバルは昨年の55kg級決勝で山本聖子と激戦を演じたボロソバ・リウボフ(ロシア)、2年連続の欧州チャンピオンのタチアナ・ラザレバ(ウクライナ)、世界チャンピオン経験者のグドルン・ホイエ(ノルウェー)、アンナ・ゴミス(フランス)、サラ・エリクソン(スウェーデン)らが考えられる。しかし山本が昨秋、延長にもつれるまで粘られたアジア・チャンピオンのサン・ドンメイ(中国)に圧勝した事実や、今夏の世界合宿での手合わせの内容からして、吉田に優勝の可能性は十分すぎるほどある。

 もちろん敵は国内にもいる。山本がこのままズルズルと後退していくとは思えないし、51kg級世界V2の坂本日登美(中京女大)がこの階級にアップする可能性もある。むしろ国内での闘いの方が厳しいだろう。だが、「中国の選手をはじめ世界の強豪に勝てたので大きな自信になりました。この調子で世界選手権も頑張り、オリンピックへつなげていきたいです」と気持ちは前向き。その目はアテネで上げるべき日の丸をしっかりと見据えている。

 
父・吉田栄勝さん(1973年全日本選手権フリー57kg級優勝)の話「よくやった。おめでとう。最後の試合は、1点を取られてからすぐに頭を切り替えられたのがよかったと思います。大会を通じて気持ちをうまくもっていけたようです。まだ先は長い。目標をひとつずつクリアしていってもらえれば、うれしいです」

 
母・幸代さんの話「皆さんのおかげです。ありがとうございました。沙保里には、『よくやったね。おめでとう! ご苦労さま』と言ってあげたいです」



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