【特集】ウクライナ・レスリングを学ぶ嘉戸洋コーチ



 先月、世界グレコローマン選手権が行われたモスクワには、ウクライナへコーチ留学している嘉戸洋コーチ(国士大卒、95年グレコローマン48kg級世界2位、アトランタ五輪7位)の姿があった。8月15日に日本を発った。もちろんウクライナ・チームの一員としてチーム入りできるはずはない。世界のレスリングを研究するため、自費で寝台列車に乗ってのモスクワ入りだ。

 日本を発ってウクライナに着いた翌日から約2週間、アルーシタという市で行われたウクライナ、アルメニア、カザフスタン、ロシアなどの合同練習に参加した。それが終わると住居を確保し、4日後からキエフで始まったウクライナ世界選手権代表チームの最終合宿に参加。そのままモスクワへ向かった。
 
 わずか1か月間、しかも世界選手権前の調整合宿ともいえる練習でウクライナ・レスリングを論じることはできないが、感じたことは「そりの強さ」だという。準備運動、本チャンの練習を問わず、ブリッジ系の練習を数多くやっていることに驚いた。ここで言うブリッジとは首の補強トレーニングのブリッジではなく、後ろへそるブリッジワークのことだ。

 「日本選手がクリンチ(コンタクト・ルール)に弱いのは、この練習をしっかりやっていないからではないか」と思ったという。外国選手は、クリンチから相手を宙に浮かす豪快なそり投げを決めて一気にフォールへもっていく選手が多いが、日本選手ではほとんど見かけない。この差は、少年時代からを含めて、このブリッジ練習の差、あるいは指導者が重要に思っているかいないかの差ではないかと感じたという。実際にウクライナ・チームの練習では、クリンチからの練習に割く時間が多いという。このあたりの意識の差も感じたことだ。

 ナショナル合宿の練習は1日3回。朝練習はランニングと補強、昼にはスタンド・レスリングを1時間20分、夕方はグラウンド・レスリングを1時間20分くらい。基本的にスタンド、グラウンドを分けてやり、ほとんどが100パーセントの力を出し合っての攻防。7割くらいの力で攻防する技の研究的な練習や、技術指導、体力増強トレーニングはなし。「それらは当然できているものであり、個人でやるもの、と考えられている」。選手によっては練習が終わったあと自主的に体力トレーニングをやっているという。

 もちろん、これはナショナルチームの練習だからであって、すべてのチームの練習にあてはまることではない。このあとは、今回の世界大会にも4選手を送っており世界チャンピオンも輩出したウクライナ最強のチームに常駐し、そのレスリングを徹底的に研究するので、各所属ではどんな練習をしているかを学ぶことになる。

 期間は約1年間。来年の夏には帰国し、世界選手権前の日本チームに合流予定。学んだものを少しでも選手に伝え、世界選手権(10月、フランス)に臨ませたいという。「何かを学ぶには短すぎるかもしれませんね」。気合十分のウクライナ留学だ。

 ⇒ 嘉戸コーチへの応援メールは kado-japan@juno.ocn.ne.jp へ。



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