「出るのなら必死の覚悟をしろ!」…谷津嘉章がゲキ

 モントリオール五輪フリー100kg級6位であり、モスクワ五輪の幻の代表の谷津嘉章さん(現SPWF、日大OB)が、アテネ五輪を目指してレスリングに初挑戦する高田延彦を「甘い、五輪どころか、オレにも勝てない」と一喝。レスリング界の集客力アップ、競技人口増加の起爆剤として高田のスター性を認めながらも、「高田はリスクを背負うことになる」とし、どうしても出たいのなら「決死の覚悟をしろ」と要求した。(聞き手/「内外タイムス」記者・岡田京林)


Q:日本レスリング界の重量級第1人者でもあった谷津さんは、今回の高田選手のレスリング挑戦をどう思いますか。

谷津:オリンピックだって? 可能性は皆無に等しい。不可能だよ。

Q:高田さんは格闘技界では第1線で戦ってきた実績のあるプロレスラー、プロ格闘家ですが…。

谷津:確かにプロレスは一流だが、レスリングでは語るにも忍び難い。高田はレスリングでは“プロ”じゃないんだよ。オレが空手に挑戦するようなもの。ポッと出てきた高田がオリンピックに出られるようなら、自衛隊のヤツらなんてやってられないぞ。アイツらは来る日も来る日もレスリングに打ち込んで、それでも出られるかどうか分からないんだ。そんなに甘い世界じゃない。なんならオレも130kg級に出て世紀の対決でもやってやろうか。万に一つでも高田には負けんよ、オレは。

Q:高田さんはあえて130kg級に挑戦する意向のようですが。

谷津:オリンピック代表にはアジア選手権や世界選手権での実績が必要。外国のそれらの階級は強いヤツがゴロゴロいて、まさに激戦区。ところが国内レベルで考えた場合、130kg級は逆に正解かもしれない。130kg級は日本のレスリング界で最も選手層の薄い階級だからな。エントリーする選手も5、6人ぐらい。全日本選手権に出やすいんじゃないかな。ま、高田効果で若干エントリー数は増えるかもしれないが。

Q:グレコローマンを選んだという点ではどうですか。

谷津:それも賢い選択だ。グレコは上半身しか使わないから、そう簡単にはテークダウンはとられない。フリースタイルは複雑なテクニックが必要だからな。見た目には惜しい試合には見えるだろうし、一応の格好はつくよ。

Q:年齢的な面からはどうですか。

谷津:レスリング出身者の桜庭(和志)とかなら分かるが、高田は元野球少年だぞ。年齢的に遅すぎる。高田の年齢で第1線張ってるヤツなんていない。せいぜい30歳がリミット。マスターズの大会でも出たほうがいいかもしれないな。

Q:高田選手は、レスリング挑戦の目的の1つに格闘技界の底辺拡大を挙げています。

谷津:高田はまぎれもないプロのスター。高田がレスリングの大会に出ることによって集客力増化や競技人口の拡大にはつながるだろう。そういった意味では、高田のレスリング界に及ぼす恩恵は多大。ただ、試合は別物ってことを言いたいだけ。一歩間違えればただの茶番に終わる。横道にそれずにいけば、レスリング界関係者だけにとどまらず、周囲の目も「よくぞやってくれた」ってなるよ。高田にはそれぐらいのスター性、ネームバリューはある。ま、レスリング界に本気で飛び込むなら、アイツのつちかってきたノウハウを、今、立案中の総合格闘技の組織の方でぜひ生かしてもらいたいね。

Q:確かにプロ、アマのパイプを密にしようとするレスリング界からしてみれば、これ以上ない起爆剤になりますね。

谷津:その反面、高田は相当なリスクを背負うことにもなる。プロレスからアマレスに行くことは、上から下に行くことに見られている。実際は全く別物なんだけど、そこで負ければ、「プロがアマチュアに負けた」ってたたかれる危険性がある。そういうリスクを承知の上でレスリングに挑戦する高田の心意気には、バックアップしてやりたいって気持ちはある。桜庭をはじめいい練習パートナーに恵まれているから心配ないとは思うが、高田も団体のトップ。桜庭とかが教えにくいってんなら、オレがけいこをつけてやってもいい。

Q:確かに一般的にはそういう見方をされる可能性はありますね。

谷津:高田1人に背負わさなくってもいいんだ。桜庭のほか、永田裕志、中西学(以上新日本プロレス)、秋山潤、三沢光晴(ノア)、藤田和之(フリー)、みんな社会人選手権にエントリーしろ。みんな多かれ少なかれレスリング界には世話になっているんだし、全員出ればすごいことになる。130kg級を日本レスリング界の花形階級にしようじゃないか。

Q:高田選手にとって最大の課題は。

谷津:ウエートを増やし、スタミナ面のハンディをどう克服するか。そしてレスリングの動きを身につけることだが、こればっかしは一朝一夕でできるもんじゃないからな。130kg級は押し倒されたらすぐフォールにつながる。もろ差しに気をつけて下がらず前に前に出ていけ。

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